「またTikTokか…」で済ませてない？棚から消える食べ物の裏側にある、誰も教えてくれない不都合な真実

「うわ、このサーモンボウルのレシピ、めっちゃ美味しそう！」「え、フェタチーズをオーブンで焼くだけで絶品パスタに？今すぐ試したい！」

TikTokのおすすめフィードを眺めていると、次から次へと現れる、魅力的で簡単な料理動画。あなたも一度は「これ作ってみたい！」と心を躍らせ、スーパーに駆け込んだ経験があるのではないでしょうか。

でも、いざお店に着くと、お目当ての食材だけがごっそり棚から消えている…。「またTikTokで流行ってるやつか…」とため息をつきながら、別の献立を考える。多くの人が、そんな経験をしているはずです。

しかし、この「いつものこと」の裏側で、実は世界規模の深刻な問題が静かに進行しているとしたら…？

この記事を読めば、なぜTikTokのたった数十秒の動画が、世界中のスーパーから特定の食材を消し去ってしまうのか、その驚くべきメカニズムが手に取るようにわかります。これは単なる「流行」という言葉では片付けられない、現代社会が抱える構造的な問題なのです。

さらに、この記事は単なる原因解説に留まりません。あなたが無意識のうちに加担しているかもしれない品不足の”加害者”から、賢い”消費者”へとステップアップするための具体的なアクションプランまで提示します。読み終わる頃には、あなたはTikTokのトレンドとの付き合い方をアップデートし、より豊かで持続可能な食生活を送るためのヒントを確実に手に入れているでしょう。

結論：犯人は「アルゴリズム×供給網の脆さ×人間の心理」の三重奏

なぜ、TikTokでバズった食べ物は世界的な品不足を引き起こしてしまうのでしょうか？忙しいあなたのために、まずは結論からお伝えします。

その理由は、「①光速を超えるTikTokの拡散力」、「②グローバル化の裏に潜む食品サプライチェーンの脆弱性」、そして「③『乗り遅れたくない！』という人間の根源的な承認欲求（FOMO）」という3つの要素が、奇跡的かつ破壊的なレベルで絡み合い、需要と供給のバランスをほんの数日で崩壊させてしまうからです。

これは、テレビや雑誌がトレンドを作っていた時代には決して起こりえなかった、SNS時代特有の現象です。それぞれの要素がどのように作用し合い、世界中の食料棚を空にしてしまうのか。これから、その衝撃的なプロセスを5つのステップに分けて、プロの視点から徹底的に解剖していきましょう。

ステップ1：火種はスマホの中に。バズるレシピが生まれる、はじめの一歩

すべての物語には始まりがあります。世界的な品不足の引き金となる「バズるレシピ」は、一体どこで、どのようにして生まれるのでしょうか。

誰が、なぜ、何を投稿するのか？インフルエンサーと一般人の境界なき世界

かつて、食のトレンドは有名な料理研究家や一流シェフが生み出すものでした。しかし、TikTokの登場がその常識を根底から覆しました。 今や、トレンドの火付け役はごく普通の主婦であり、一人暮らしの大学生であり、あるいは料理好きの高校生だったりします。

彼らはプロの料理人のように完璧な盛り付けや高級な調理器具を使いません。むしろ、少し不格好でも、ありふれた食材でも、「こんな手があったのか！」という驚きや、「これなら私にもできそう！」という親近感が、共感の渦を生み出すのです。

もちろん、何百万人ものフォロワーを抱えるフード系インフルエンサーの影響力も絶大です。彼らが紹介する商品は、瞬く間に「お墨付き」を得て、多くの人々の購買意欲を刺激します。しかし、TikTokの面白さは、昨日まで誰も知らなかった一般人の投稿が、アルゴリズムの気まぐれ一つで、一夜にして世界的なトレンドになり得る点にあるのです。

「簡単」「意外な組み合わせ」「ASMR」バズる動画に共通する3つの魔法

では、数多ある料理動画の中から、なぜ特定のレシピだけが爆発的に拡散するのでしょうか。そこには、人間の心理を巧みに突く、いくつかの共通点が存在します。

これらの要素が巧みに組み合わさった動画は、視聴者の「作ってみたい」「食べてみたい」という欲求を最大限に引き出し、次のステップである「爆発的な拡散」への準備を整えるのです。

ステップ2：光速の拡散！アルゴリズムが世界を飲み込む恐怖の連鎖

火種が生まれたら、次はその火を燃え上がらせる「風」が必要です。TikTokにおいて、その風の役割を果たすのが、恐るべき精度を誇る「レコメンドアルゴリズム」です。

あなたの「おすすめ」フィードはこう作られる！TikTokアルゴリズムの衝撃

TikTokを開くと表示される「おすすめ」フィード。ここに表示される動画は、あなたが過去に「いいね」した動画、コメントした動画、長く視聴した動画、フォローしているアカウントなどの膨大なデータを元に、AIが「あなたが次に見たいであろう動画」を瞬時に判断し、表示しています。

このアルゴリズムの恐ろしい点は、その“伝染力”の強さです。

ある「バズるレシピ」動画が投稿されると、まず少数のユーザーに表示されます。その動画のエンゲージメント（いいね、コメント、シェア、視聴維持率など）が高いとAIが判断すると、AIは「この動画は面白い（＝多くの人が興味を持つ可能性が高い）」と学習し、類似の興味を持つさらに多くのユーザーに動画を表示し始めます。この連鎖がネズミ算式に繰り返されることで、動画は文字通り“ウイルス”のように拡散していくのです。

「

foodtok」の威力：1本の動画が数億回再生される世界の現実

この拡散をさらに加速させるのが、「

foodtok」や「#TikTokグルメ」といったハッシュタグの存在です。 これらのハッシュタグがついた動画は、食に関心のあるユーザーに優先的に表示されやすくなります。

例えば、2021年に世界中でフェタチーズ不足を引き起こした「

ギリシャ風フェタチーズパスタ」の動画。 このトレンドはフィンランドのフードブロガーが投稿した一つの動画から始まりましたが、瞬く間に国境を越え、数週間で関連動画の再生回数は億単位に達しました。 日本でもスーパーのチーズ売り場から塊のフェタチーズが消え、多くの人がその影響を実感したはずです。

これはテレビCMとは比較にならない、桁違いのリーチ力です。 従来、数億円の広告費をかけても達成できなかったレベルの認知度を、たった1本の動画が、しかもほとんどコストをかけずに実現してしまう。これがTikTok時代のマーケティングの現実であり、品不足を引き起こす巨大なエネルギーの源泉なのです。

ステップ3：スーパーへ走れ！「乗り遅れ恐怖（FOMO）」が需要を爆発させる

動画が爆発的に拡散されると、いよいよ現実世界への影響が出始めます。人々の心に火をつけ、一斉にスーパーへと向かわせる強力な心理的トリガー、それが「FOMO（Fear Of Missing Out）」、つまり「取り残されることへの恐怖」です。

「みんなが作ってるから私も！」集団心理が購買行動を支配する

人間は社会的な生き物であり、「コミュニティに所属していたい」「仲間外れになりたくない」という根源的な欲求を持っています。 TikTokのおすすめフィードに同じレシピ動画が何度も表示され、友人や好きなインフルエンサーが「作ってみた」と投稿しているのを見ると、「このブームに乗り遅れたくない」「自分もこの体験を共有したい」という強い欲求が生まれます。

> 【SNSの声】

> 「TLに流れてくるサーモンボウル、あまりに美味しそうでついに作った！みんながハマる理由がわかった…」 > 「近所のスーパー3軒回ってやっとフェタチーズゲット！これで私も流行に乗れる（笑）」

このような「自分も体験した」という投稿は、さらなるFOMOを煽り、まだ試していない人々の背中を押します。これはまさに、「流行が流行を呼ぶ」という自己増殖的なスパイラルです。

「棚から消えた！」品薄情報がさらに需要を煽る悪循環

皮肉なことに、品薄状態が始まると、このFOMOはさらに加速します。

「〇〇がどこにも売ってない！」というSNS上の投稿は、「今手に入れないと、もう二度と手に入らないかもしれない」という希少性の原理を人々の心に植え付けます。すると、それまで「ちょっと興味がある」程度だった人々までが、「とりあえず買っておかなくては」と焦り、パニック的な購買行動に走るのです。

これは、コロナ禍初期にトイレットペーパーが店頭から消えた現象と全く同じ心理メカニズムです。 商品そのものの価値だけでなく、「手に入らないかもしれない」という恐怖が、本来の需要をはるかに超えた異常な需要を生み出してしまうのです。

【私の失敗談】アボカド難民になった「サーモンボウル」ブーム

何を隠そう、私自身もこのFOMOの罠にハマった一人です。数年前、TikTokで大流行した「サーモンボウル」。刻んだサーモン、ご飯、アボカド、きゅうりなどを混ぜて食べる、あのレシピです。

あまりにも簡単で美味しそうだったので、仕事帰りに軽い気持ちでスーパーに立ち寄りました。しかし、鮮魚コーナーのサーモンは売り切れ。まあ、これは仕方ないかと別のスーパーへ。しかし、そこでもサーモンはない。それどころか、普段は山積みになっているアボカドまで品薄状態になっているのです。

「こうなったら意地でも作ってやる！」と、結局3軒のスーパーをはしごしましたが、満足な材料は揃わず…。疲れ果てて帰宅し、SNSを開くと「サーモンボウル作った！」というキラキラした投稿が並んでいるのを見て、言いようのない敗北感を味わったのを覚えています。

この時、私は身をもって体験しました。個人の「作ってみたい」という純粋な気持ちが集団的な熱狂に変わった時、いかに市場が脆く、簡単に麻痺してしまうのかを。

ステップ4：追いつかない生産現場！世界のサプライチェーンが悲鳴をあげる

消費者の熱狂がピークに達する一方で、その需要を満たすべき生産現場や物流網、いわゆる「食品サプライチェーン」は、静かに限界を迎えつつあります。なぜ、急な需要増に彼らは対応できないのでしょうか。

なぜすぐ増産できない？農産物・加工品の「リードタイム」という高い壁

多くの人が見落としがちなのが、食品が私たちの手元に届くまでには、非常に長い「リードタイム（生産・供給にかかる時間）」が必要だという事実です。

例えば、TikTokでバズったのが特定の野菜だったとします。農家がその需要増を知ってから種を蒔いても、収穫できるのは数ヶ月先です。乳製品であるフェタチーズの場合、原料となる羊やヤギのミルクの生産量を急に増やすことはできません。そもそも、家畜の数を増やすには年単位の時間がかかります。

このように、食品サプライチェーンは、数年単位の長期的な需要予測に基づいて、非常に計画的に構築されています。 TikTokが生み出すような、数日で需要が数百倍になるような「予測不可能な需要爆発」は、全く想定されていないのです。

【事例研究】品不足パニックの歴史から学ぶ教訓

TikTokが引き起こした品不足は、枚挙にいとまがありません。過去の事例を振り返ることで、この問題の根深さが見えてきます。

• フェタチーズ（2021年）: 「
  

  ギリシャ風フェタチーズパスタ」の流行により、世界中で品薄に。 特に、レシピで推奨されたブロックタイプのものが深刻な供給不足に陥りました。

• ピスタチオ（2023年〜）: ドバイ発のチョコレート「ドバイチョコレート」がバズったことで、主原料のピスタチオの需要が急増。 イランからUAEへの輸出量が急激に増加するなど、国際的な取引にも影響を与えました。
• マッチャ（近年）: 健康志向の高まりとSNS映えする緑色が人気を呼び、世界的に需要が拡大。 最大の生産国である日本でも供給懸念が報じられる事態となっています。
• きゅうり（特定地域）: あるインフルエンサーのきゅうりサラダがバズった結果、アイスランドなどの一部地域でスーパーからきゅうりが消え、緊急空輸される事態にまで発展しました。

これらの事例は、ブームが一過性のものであっても、サプライチェーンに与えるインパクトがいかに大きいかを物語っています。

意外な盲点！パッケージや容器の不足も品薄を加速させる

品不足の原因は、食材そのものだけとは限りません。例えば、「特定のブランドのチリソース」や「特定の形状のパスタ」がレシピで指定された場合、その商品に需要が集中し、品切れを起こすことがあります。

さらに見落とされがちなのが、パッケージや容器の不足です。中身の食材は十分にあっても、それを詰める瓶やプラスチック容器、ラベルなどが足りなくなり、結果として製品を市場に出荷できなくなるケースも実際に発生しています。 サプライチェーンとは、こうした無数の要素が複雑に絡み合った、非常に繊細なシステムなのです。

ステップ5：価格高騰と転売ヤーの出現。そして、誰も幸せにならない結末へ

需要が供給を大幅に上回り、品不足が深刻化すると、市場原理に従って最後のステップへと進みます。それは、「価格の高騰」と、それに伴う新たな問題の発生です。

需要と供給の残酷な法則：品薄になれば値段は上がる

手に入りにくいものは、価値が上がります。これは経済の基本原則です。スーパーの棚から商品が消えると、卸売価格が上昇し、それが小売価格に転嫁されます。ピスタチオの価格は、ドバイチョコレートのブームにより、過去1年で35%も高騰したという報告もあります。

本当にその食材を必要としていた人々、例えば日常的に料理に使っていた人や、それを生業とする飲食店にとっては、これは死活問題です。流行に乗りたい一部の人々の行動が、結果的に多くの人々の食生活を圧迫してしまうという、皮肉な状況が生まれるのです。

フリマアプリを覗いてみて。転売ヤーが品不足に拍車をかける現実

そして、品不足と価格高騰は、必ずと言っていいほど「転売ヤー」を呼び寄せます。彼らは品薄になることを見越して商品を買い占め、フリマアプリなどで高額で転売することで利益を得ようとします。

これは、品不足をさらに悪化させる悪質な行為です。しかし、どうしてもその商品が欲しいという人がいる限り、転売ヤーが根絶されることはありません。あなたの「今すぐ欲しい」という気持ちが、彼らのビジネスを支え、市場の混乱を助長している可能性もあるのです。

一過性のブームが生産者に与える、知られざる深刻なダメージ

やがてブームは去ります。人々の関心は次の新しいトレンドへと移り、あれほど熱狂して求めていた食材のことは、すぐに忘れ去られていくのです。

しかし、生産現場に残された爪痕は深刻です。

需要爆発に対応しようと、無理な設備投資をして増産体制を整えた農家やメーカーは、ブームが去った後、大量の在庫と過剰な生産設備を抱えることになります。最悪の場合、価格が暴落し、経営危機に陥る可能性すらあります。

TikTokのトレンドは、消費者に一時的な楽しみを提供する一方で、その裏側でサプライチェーンに関わる人々を翻弄し、持続可能な生産体制を蝕んでいる危険性をはらんでいるのです。

私たちはどう向き合うべき？賢い消費者になるための3つのアクション

ここまで読んで、TikTokのトレンドがもたらす影響の大きさに、少し怖くなってしまったかもしれません。しかし、トレンドを追いかけること自体が悪いわけではありません。問題は、その裏側にあるメカニズムを知らずに、無意識のうちに行動してしまうことです。

では、私たちはこの巨大なうねりと、どう向き合っていけば良いのでしょうか。品不足の”加害者”にならないために、明日から実践できる3つのアクションを提案します。

アクション1：「本当に必要？」一呼吸置いて、自分の心に問いかける

バズるレシピを見て「作りたい！」と思ったら、すぐにスーパーへ走る前に、一度立ち止まってみましょう。そして、自分にこう問いかけてみてください。

• 「私は、本当にこれが食べたいのだろうか？」
• 「それとも、ただ流行に乗ってみたいだけなのだろうか？」

もし後者であれば、少し時間を置くのが賢明です。数日経てば、ブームの熱狂も少し落ち着き、冷静な判断ができるようになるはずです。あなたの食生活を本当に豊かにするのは、トレンドを追いかけることではなく、あなた自身が心から「美味しい」と感じるものを食べることのはずです。

アクション2：代替品を探すクリエイティビティを発揮する

お目当ての食材が手に入らなくても、がっかりする必要はありません。むしろ、それを「創造性を発揮するチャンス」と捉えてみましょう。

• フェタチーズがなければ、カッテージチーズやクリームチーズで代用できないか？
• レシピで指定された特定のブランドのソースがなければ、家にある調味料を組み合わせて似た味を再現できないか？

完璧にレシピを再現することだけが料理の楽しみではありません。自分なりの工夫やアレンジを加えることで、世界に一つだけのオリジナルな一皿が生まれるかもしれません。その試行錯誤の過程こそが、料理の醍醐味であり、あなたの食生活をより深く、豊かなものにしてくれるでしょう。

アクション3：地元の食材や旬のものを応援する気持ちを持つ

グローバルなトレンドに目を向けるのも楽しいですが、時には足元にある豊かさに目を向けてみてはいかがでしょうか。

あなたの住む地域で採れた旬の野菜や果物、地元の商店が作るこだわりの加工品。それらは、長距離輸送を必要としないため環境負荷が少なく、新鮮で栄養価も高い場合が多いです。何より、地元の生産者を応援することは、地域の経済を活性化させ、持続可能な食料システムを支えることに繋がります。

TikTokのトレンドをきっかけに料理に興味を持ったのなら、次はそのエネルギーを、より身近で、より持続可能な食の世界へと広げていく。それが、これからの時代を生きる賢い消費者の姿なのかもしれません。

まとめ

最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返りましょう。

• TikTokのアルゴリズムは、予測不可能な需要を瞬時に生み出し、伝統的な食品サプライチェーンの許容量を簡単に超えてしまう。
• 私たちの「流行に乗り遅れたくない」という心理（FOMO）が、品薄に拍車をかけ、価格高騰や転売といったさらなる問題を引き起こす。
• 一過性のブームは、生産者に深刻なダメージを与え、持続可能な食料生産システムを脅かす危険性がある。

TikTokは、私たちの食生活に新しい発見と楽しみをもたらしてくれる素晴らしいツールです。 しかし、その強大な影響力の裏には、これまで見てきたような光と影が存在します。

この記事を読んでくださったあなたは、もう単なる情報の受け手ではありません。トレンドの裏側にある社会的なメカニズムを理解し、自分の行動を選択できる、賢い消費者への第一歩を踏み出しました。

次にあなたがTikTokで魅力的なレシピに出会った時、ぜひこの記事の内容を思い出してください。そして、一呼吸置いて、自分なりの工夫を凝らし、食との新しい向き合い方を楽しんでみてください。その小さな一歩が、あなた自身の食生活を豊かにし、そして巡り巡って、私たちの食の未来をより良いものへと変えていく力になるはずです。

雑談力向上委員会

編集部