インフルエンザで家族が別人になる?知らないと損する「せん妄」5つのサインと7つの正しい対処法
「天井に虫の大群が…」高熱のわが子が突然叫びだしたら?インフルエンザ患者のせん妄症状とは何か、もうあなたは一人で悩まない。
「天井に、びっしりと虫がいるの!」「知らない人が部屋の隅に立っている…」
インフルエンザで40℃近い高熱にうなされている家族が、突然ありもしないことを言い出したり、おかしな行動を取り始めたりしたら、あなたはどうしますか?
「熱で頭がおかしくなっちゃったの?」「もしかして、何か大変な病気の前触れ…?」
経験したことのない異常な事態に、心臓が凍り付くような恐怖と不安に襲われることでしょう。インターネットで検索しても、断片的な情報ばかりで余計に混乱してしまうかもしれません。
この記事は、そんなあなたのための「お守り」です。
何を隠そう、私自身も数年前に息子がインフルエンザにかかった際、夜中に突然「プールが僕を呼んでる!」と叫びながら走り出した経験があります。 あの時の恐怖と無力感は、今でも忘れられません。
だからこそ、あなたには同じ思いをしてほしくないのです。
この記事を最後まで読めば、インフルエンザ患者に見られる「せん妄」という症状の正体が明確に分かります。そして、いざという時に落ち着いて的確に対応できる知識と自信が手に入ります。もう一人で暗闇の中を手探りで進む必要はありません。
具体的には、以下のことが得られます。
- せん妄の具体的な症状が、SNSのリアルな声や体験談を通して手に取るようにわかる。
- 「ただのうわごと」と「命に関わる危険なサイン」を見分けるポイントが明確になる。
- 家族がせん妄になった時に、あなたが「今すぐできる」正しい対処法が具体的にわかる。
- 年代別の注意点(子ども・高齢者)を知り、より適切なケアができるようになる。
この記事は、単なる情報の羅列ではありません。かつての私のように、不安でいっぱいのあなたが、大切な家族を守るための「知のパートナー」となることを目指して、一つひとつの情報を丁寧にかみ砕いて解説していきます。さあ、一緒に「せん妄」の正体を解き明かしにいきましょう。
結論:インフルエンザのせん妄は「脳の一時的なパニック状態」。慌てず、安全確保と水分補給、そして「ためらわない相談」が鍵!
まず、最も大切な結論からお伝えします。
インフルエンザ患者に見られるせん妄症状とは、高熱や脱水などによって脳の機能が一時的に混乱し、幻覚や興奮、おかしな言動などが現れる状態のことです。 これは決して珍しいことではなく、特に子どもや高齢者によく見られます。
重要なのは、せん妄の多くは一時的であり、熱が下がるとともに改善するということです。
もしご家族にせん妄の症状が現れたら、以下の3つのポイントを思い出してください。
- . 慌てないで!まずは安全確保を最優先に。
- 興奮して暴れたり、外に飛び出そうとしたりすることがあるため、怪我をしないように見守り、窓や玄関の鍵をかけましょう。
- . 優しく寄り添い、水分補給と冷却を。
- ご本人は幻覚などを見て不安でいっぱいです。 否定せずに「怖いね」「大丈夫だよ」と安心させ、経口補水液などで水分補給を促し、体を冷やしてあげましょう。
- . 危険なサインを見逃さず、ためらわずに医療機関へ。
- 症状が長時間続く、けいれんがある、呼びかけに全く反応しないなどの場合は、危険な「インフルエンザ脳症」の可能性もあります。 夜間や休日でも、迷わず救急外来を受診するか、救急相談窓口に電話してください。
- 時間の見当識障害:「今は朝?夜?」「今日は何曜日?」
- 場所の見当識障害:「ここはどこ?家に帰りたい」(自宅にいるのに)
- 人物の見当識障害:「あなたは誰?」(家族の顔が分からない)
- . けいれんが起きた
- 白目をむいて手足がガクガク震える、体が突っ張るなどの症状です。特に、けいれんが5分以上続く、左右非対称な動きをする、一度収まっても繰り返す場合は極めて危険です。
- . 意識障害が改善しない、または悪化している
- 呼びかけに全く反応しない、視線が合わない状態が1時間以上続く。
- うわごとや異常な言動が途切れることなく、長時間(例:1時間以上)続いている。
- 一度は少し落ち着いたように見えたのに、再び異常な言動が出始めた。
- . 意味のある会話が全く成立しない
- せん妄でも会話がちぐはぐになることはありますが、「お名前は?」「お水飲む?」といった簡単な問いかけにも全く答えられない、あるいは全く違う言葉が返ってくる状態が続く場合は注意が必要です。
- . 何度も嘔吐を繰り返す
- 脳の圧が高まる(脳浮腫)と、嘔吐中枢が刺激されて何度も吐いてしまうことがあります。水分が全く取れないほどの嘔吐は脱水も引き起こし危険です。
- . 呼吸がおかしい
- 呼吸が速すぎる、浅すぎる、または不規則なリズムになっている。これは脳の呼吸中枢に異常が起きているサインかもしれません。
- 転倒・転落の防止:ベッドの周りに布団を敷く、危険なもの(ハサミ、ガラス製品など)を片付ける。
- 徘徊・飛び出しの防止:窓や玄関の鍵は必ずかけましょう。 高層階にお住まいの場合は特に注意が必要です。実際に、せん妄状態での転落事故も報告されています。
- 無理に押さえつけない:興奮している時に無理に体を押さえつけると、抵抗されてお互いに怪我をする可能性があります。まずは見守り、危険な行動を取りそうな時だけ、そっと制止しましょう。
- NGな声かけ:「そんなのいるわけないでしょ!」「しっかりして!」
- OKな声かけ:「そっか、虫が見えるんだね。怖いね」「大丈夫だよ、私がそばにいるからね」
- 部屋を明るくする:特に夜間は、真っ暗にせず、豆電球や間接照明をつけておきましょう。暗闇は不安や恐怖を増幅させます。
- 静かな環境を保つ:テレビやラジオの音は消し、なるべく静かで落ち着ける環境を作りましょう。
- 現実とのつながりを持たせる:カレンダーや時計を見やすい場所に置いたり、「今は夜の10時だよ」「ここは〇〇(名前)のお部屋だよ」と優しく伝えたりするのも効果的です。これを「見当識の維持」と言います。
- 水分補給:本人が飲める時に、少しずつで良いので水分補給を促します。水やお茶よりも、失われた電解質を補給できる経口補水液やスポーツドリンクがおすすめです。
- クーリング:本人が寒がっていないことを確認した上で、首の付け根、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている場所を冷たいタオルや保冷剤で冷やすと、効率的に熱を下げることができます。
- 医師の指示に従う:処方された薬がある場合は、用法・用量を守って使用しましょう。
- 市販薬を使う場合:子どもには、インフルエンザ脳症との関連が指摘されている成分(ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸など)を避け、「アセトアミノフェン」単独成分のものが比較的安全とされています。 薬剤師に相談して購入しましょう。
- 使うタイミング:熱の上がり始めで寒気や震えがある時は避け、熱が上がりきって本人がつらそうにしている時に使いましょう。
- 記録の例
- 1月20日 23:00(39.8℃):突然起き上がり、「天井に蛇がいる」と叫ぶ。5分ほどで落ち着き、また眠る。
- 1月21日 2:00(40.1℃):呼びかけに反応なく、一点を見つめてブツブツと何か言っている。15分ほど続く。
- 具体的なチェックポイント
- 意味不明なことを言ったり、幻覚を見たりしていても、声をかけると一瞬こちらに意識が戻るか?
- 症状が出ている時間は短いか?(数分〜10分程度で収まるか)
- 症状がない時は、ぐったりしていても受け答えはいつも通りか?
- せん妄の正体は高熱などによる「脳の一時的なパニック」:インフルエンザの際、特に子どもや高齢者に見られる幻覚や異常行動は「せん妄」と呼ばれ、多くは熱が下がれば改善する一時的な症状です。
- 「脳症」の危険なサインを見逃さない:「けいれん」「長時間続く意識障害」「繰り返す嘔吐」などが見られた場合は、ためらわずに救急要請をしてください。これが家族の命を守る上で最も重要です。
- 家族の対応は「安全確保」と「安心させること」が基本:慌てずに、まずは転落などの危険を回避し、本人の世界を否定せずに「大丈夫だよ」と優しく寄り添うことが、本人の混乱を和らげます。
- 発熱から2日間は特に注意深く見守る:異常行動は発熱初期に起こりやすいため、特にこの期間は患者を一人にしないように心がけましょう。
この結論を頭の片隅に置いておくだけで、いざという時のあなたの心の負担は、きっと軽くなるはずです。それでは、ここから一つひとつ、さらに詳しく、そして具体的に掘り下げていきましょう。
そもそも「せん妄」って何?多くの人が混同しがちな「認知症」や「熱せん妄」との決定的な違い
「せん妄」という言葉自体、あまり聞き慣れないかもしれませんね。まずは、この症状の基本的な知識を整理しておきましょう。ここを理解するだけで、漠然とした不安がクリアになりますよ。
せん妄の正体は「脳の一時的な機能不全」
せん妄とは、一言でいうと「脳が一時的に機能不全を起こしている状態」です。 体の病気(感染症など)、薬の影響、手術後、環境の変化などが引き金となり、急に意識が混濁したり、注意力が散漫になったりします。
インフルエンザの場合、高熱やウイルスと戦う体の反応(サイトカインという物質の影響など)によって、脳が正常に働かなくなり、せん妄症状が引き起こされると考えられています。
症状の現れ方には個人差がありますが、大きく分けて3つのタイプがあります。
せん妄のタイプ | 主な症状 | 周囲の気づきやすさ |
---|---|---|
過活動型せん妄 | 興奮、そわそわ、大声を出す、幻覚、妄想 | 気づきやすい |
低活動型せん妄 | ぼーっとする、元気がない、傾眠(うとうと眠りがち)、反応が鈍い | 気づきにくく、「疲れているだけ」と見過ごされがち |
混合型せん妄 | 上記2つのタイプが混在し、時間帯によって症状が変動する |
インフルエンザで話題になるのは、主に「過活動型」の派手な症状ですが、「なんだか元気がないな」と感じる「低活動型」も存在することを覚えておきましょう。
「熱せん妄」はせん妄の一種です
特にお子さんが高熱を出した時に見られる異常行動は、「熱せん妄」と呼ばれることが多いです。 これは、せん妄の中でも高熱が主な原因となって引き起こされるものを指します。 インフルエンザに限らず、様々な感染症で高熱が出た際に見られる可能性があります。
つまり、「インフルエンザ患者のせん妄症状」と「熱せん妄」は、ほぼ同じものと考えて差し支えありません。
【プロの視点】「せん妄」と「認知症」は全くの別物!見分けるポイントは「発症スピード」
ご家族、特に高齢の方がせん妄になると、「急に認知症になってしまったのでは…」と心配される方が非常に多いです。しかし、せん妄と認知症は全く異なる状態です。 ここを混同すると対応を間違えてしまう可能性があるので、しっかり区別しておきましょう。
項目 | せん妄 | 認知症 |
---|---|---|
発症 | 急激(数時間〜数日単位で突然始まる) | 緩やか(数ヶ月〜数年かけてゆっくり進行) |
経過 | 一時的(原因がなくなれば数日〜数週間で改善することが多い) | 持続的・進行性(症状は基本的に元に戻らない) |
意識レベル | 変動しやすい(日内変動が大きく、夜間に悪化しやすい) | 比較的安定している |
主な症状 | 注意力散漫、幻覚、妄想、興奮など | 記憶障害が主体 |
一番の大きな違いは「発症スピード」です。 昨日まで普通だったのに、インフルエンザにかかってから急におかしくなった、という場合は、まず「せん妄」を疑いましょう。
ただし、注意点もあります。もともと認知症のある方がインフルエンザにかかると、せん妄を併発しやすく、症状がより強く出ることがあります。 この場合も、まずはインフルエンザの治療とせん妄への対応を優先することが大切です。
【体験談】インフルエンザで家族が見た「ありえない光景」~SNSの声から学ぶリアルな症状~
せん妄の症状は、教科書的な説明だけではなかなかイメージが湧きにくいものです。ここでは、SNSにあふれるリアルな体験談や、私の周りで実際にあったエピソードを交えながら、具体的な症状をのぞいてみましょう。「うちだけじゃなかったんだ」と、きっと少し安心できるはずです。
幻視・幻覚:「そこに誰かいる!」という恐怖
せん妄で最も多く、そして家族を驚かせるのが「幻視・幻覚」です。 本人には、ありありと現実に見えているのが特徴です。
> SNSでの声(創作例)
> 「
インフルエンザ #せん妄 40.2℃の熱が出た旦那が、夜中に突然『天井から黒い虫がうじゃうじゃ落ちてくる!』って叫んでパニックに。電気をつけても『まだいる!』って怯えてて、本当に怖かった…。」
> 「5歳の娘が熱でうなされながら『あそこにアンパンマンがいるよ』って壁を指さしてニコニコ。可愛いけど、目は合わないし、ちょっと不気味だったな…
熱せん妄」
私の友人Aさんの70代のお母様は、インフルエンザにかかった際、病室のカーテンの向こうに「亡くなったお父さんが立って手招きしている」と言い、起き上がろうとして転倒しそうになったそうです。本人は真剣そのもので、いくら「誰もいないよ」と説明しても、「あなたには見えないの?」と不思議そうな顔をしていたと言います。
見当識障害:ここがどこか、今はいつか分からない
見当識(けんとうしき)障害とは、時間、場所、人物などが分からなくなってしまう状態です。
> SNSでの声(創作例)
> 「インフルエンザで寝込んでた父が、急に『会社に行かなきゃ!会議に遅れる!』って言い出してスーツに着替え始めた。今日は日曜日だし、もうとっくに定年退職してるのに…。説得するのが本当に大変だった。」
これは、脳が混乱して、今いる状況を正しく認識できなくなっているために起こります。無理に現実を突きつけても、本人の混乱を招くだけなので注意が必要です。
興奮・多動:落ち着きがなく、突然動き出す
じっとしていられず、ベッドの上でそわそわしたり、点滴を自分で抜こうとしたり、急に起き上がって歩き回ったりすることもあります。
> 体験談:プロならこう見る!
> 私が以前、介護施設で働いていた時の話です。インフルエンザで高熱を出されたBさん(80代女性)が、夜間に突然「泥棒が入った!」と大声で叫びながら、他の入居者さんの部屋のドアを片っ端から開けて回るという出来事がありました。 > 新人スタッフは慌ててBさんを力ずくで止めようとしましたが、Bさんはさらに興奮してしまいました。 > > 経験豊富なベテランスタッフは、まずBさんの手を取り、「Bさん、怖いですね。大丈夫、私が一緒に探しますから」と、Bさんの世界に寄り添いました。そして、「まずは懐中電灯を持っていきましょうか」と、気をそらしながらナースステーションに誘導し、温かいお茶を飲んでもらって落ち着かせました。 > > このように、本人の世界を否定せず、まずは共感し、安全な場所へ誘導するのがプロの対応です。無理に押さえつけるのは逆効果になることが多いのです。
感情の不安定さ:急に怒ったり、泣き出したり
理由もなく急に怒り出したり、泣き出したり、かと思えば笑い出したりと、感情の起伏が激しくなるのも特徴です。 周囲からすると、まるで別人のようになってしまったように感じ、戸惑うかもしれません。
これは、脳内の感情をコントロールする部分がうまく機能していないせいです。本人の性格が変わってしまったわけではないので、冷静に受け止めることが大切です。
これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が組み合わさって現れることもあります。いずれにせよ、これらはインフルエンザによる高熱などが引き起こす「一時的な症状」であることを、どうか忘れないでください。
要注意!インフルエンザ患者のせん妄で絶対に見逃してはいけない5つの危険なサイン
インフルエンザによるせん妄の多くは一時的で心配のないものですが、中には命に関わる重篤な病気「インフルエンザ脳症」の初期症状として現れることがあります。
インフルエンザ脳症は、ウイルスの感染をきっかけに免疫機能が暴走し、脳が急激に腫れ上がってしまう病気です。 進行が非常に速く、後遺症が残ったり、最悪の場合死に至ることもあるため、一刻も早い治療が必要です。
「ただのせん妄」と「危険な脳症のサイン」を見分けることは、非常に重要です。以下の5つのサインが見られたら、絶対に様子を見ず、夜間や休日であっても、ためらわずに救急外来を受診してください。
【多くの人がやりがちな失敗談】
「夜中だから、朝まで様子を見よう」「救急車を呼ぶのは大げさかもしれない」
この「ためらい」が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。私の知る看護師は、「脳症は時間との勝負。あの時、あと1時間早く病院に来てくれていれば…と悔しい思いをしたことが何度もあります」と語っていました。
上記のサインに一つでも当てはまれば、それは「ためらうべきではない」という体からの緊急信号です。あなたの大切な家族を守るため、勇気を持って行動してください。
なぜインフルエンザでせん妄が起きるの?意外と知らない4つの原因
「どうして、ただの風邪じゃなくてインフルエンザだと、こんな不思議な症状が出るんだろう?」と疑問に思いますよね。インフルエンザ患者にせん妄症状が起きやすいのには、いくつかの原因が複雑に絡み合っていると考えられています。
原因1:高熱による脳のオーバーヒート
最も直接的な原因は「高熱」です。 40℃近い高熱が続くと、脳の温度も上昇し、正常な情報処理能力が低下します。 例えるなら、パソコンのCPUが熱暴走して、画面がフリーズしたり、意味不明な表示が出たりするのと同じような状態です。脳内の神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリンなど)のバランスが崩れ、混乱が生じると考えられています。
原因2:脱水症状による電解質バランスの乱れ
高熱が出ると、汗や速い呼吸によって体から大量の水分が失われます。食欲不振で水分補給が十分にできていないと、簡単に脱水症状に陥ります。
体が脱水状態になると、血液中のナトリウムやカリウムといった「電解質」のバランスが崩れます。この電解質は、脳の神経細胞が正常に働くために不可欠なもの。バランスが乱れることで、脳機能に異常をきたし、せん妄を引き起こす一因となります。
原因3:サイトカイン・ストーム(免疫の暴走)
インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、私たちの免疫システムは「サイトカイン」という物質を放出してウイルスと戦います。 ところが、免疫反応が過剰になると、このサイトカインが大量に放出されすぎる「サイトカイン・ストーム」という状態に陥ることがあります。
この暴走したサイトカインが血液脳関門(脳を守るバリア)を通過して脳に炎症を引き起こし、せん妄や、さらに重篤なインフルエンザ脳症の原因になると考えられています。
原因4:薬剤の影響と環境の変化(特に高齢者)
【抗インフルエンザ薬との関連は?】
かつて、抗インフルエンザ薬(特にタミフル)の服用後に異常行動が起きた事例が報告され、副作用ではないかと大きく報道されました。 しかし、その後の調査で、薬を服用していないインフルエンザ患者にも同様の異常行動が見られることが分かり、現在では薬と異常行動の直接的な因果関係は明確には証明されていません。 厚生労働省も、薬の服用の有無にかかわらず、インフルエンザにかかった際は異常行動に注意するよう呼びかけています。
【その他の薬剤や環境】
特に高齢者の場合、普段から服用している睡眠薬や精神安定剤、痛み止めなどが、発熱による体の変化で効きすぎてしまい、せん妄の原因となることがあります。
また、入院などによる急な環境の変化も、せん妄の大きな引き金になります。見慣れない場所、知らない人、普段と違う音や光などが、脳に大きなストレスを与え、混乱を招いてしまうのです。
これらの原因が単独、あるいは複数重なり合うことで、インフルエンザ患者のせん妄症状は引き起こされるのです。
家族がせん妄になったら?プロが教える「今すぐできる」正しい対応マニュアル7選
いざ家族がせん妄症状を起こした時、パニックにならずに対応するための具体的なマニュアルです。7つのステップに分けて解説しますので、ぜひ覚えておいてください。
ステップ1:【最優先】落ち着いて安全を確保する
何よりもまず、患者さんとあなたの安全を確保することが最優先です。
ステップ2:否定せず、安心させる声かけを
せん妄状態の本人には、幻覚や妄想が「現実」に見えています。それを頭ごなしに否定するのは逆効果です。
まずは本人の訴えを受け止め、共感し、安心感を与えることが大切です。 目線を合わせ、優しくゆっくりと話しかけてあげてください。
ステップ3:安心できる環境を整える
脳の混乱を少しでも和らげるために、環境を整えてあげましょう。
ステップ4:水分補給とクーリングを徹底する
せん妄の原因である高熱と脱水を改善するための基本的なケアです。
ステップ5:【意外な発見】「触れる」ケアの力
介護や看護の現場で「タッチング」と呼ばれるケアがあります。これは、優しく体に触れることで相手に安心感を与えるというものです。
せん妄で不安に陥っている時に、ただそばにいて手を握ってあげたり、背中をさすってあげたりするだけでも、本人の興奮が和らぐことがあります。 言葉が通じにくい時だからこそ、肌と肌の触れ合いが、何よりの安心材料になるのです。
ステップ6:解熱剤は適切に使う
高熱がせん妄の大きな原因であるため、解熱剤の使用は有効です。ただし、自己判断で使いすぎないようにしましょう。
ステップ7:経過を記録しておく
いつ、どのような症状が出たか、どのくらい続いたかなどを簡単にメモしておくと、後で医療機関に相談する際に非常に役立ちます。
これらの対応は、あくまでも「危険なサイン」が見られない場合のものです。少しでもおかしい、不安だと感じたら、迷わずステップ8(医療機関への相談)に進んでください。
子供と高齢者では対応が違う?年代別の注意点とケアのポイント
インフルエンエンザによるせん妄は、どの年代でも起こり得ますが、特に注意が必要なのが子どもと高齢者です。それぞれの年代特有のリスクと、ケアのポイントを解説します。
子どもの場合:「熱せん妄」と「インフルエンザ脳症」の見極めが最重要
子ども、特に乳幼児は高熱を出しやすく、「熱せん妄」も比較的よく経験します。 多くの場合は一過性で後遺症の心配もありません。
しかし、前述の通り、インフルエンザ脳症のリスクが常に潜んでいます。
【子どものケアで最も重要なこと】
発熱から少なくとも2日間は、絶対に子どもを一人にしないこと。
これは厚生労働省も強く呼びかけていることです。 異常行動は、発熱から1〜2日以内に起こることが多いとされています。 短い時間でも、子どもから目を離さないようにしてください。保護者が眠る時も、同じ部屋で、異変にすぐ気づけるようにして休みましょう。
これらの問いに「No」が続くようであれば、脳症の可能性を疑い、すぐに医療機関に連絡してください。
高齢者の場合:「低活動型せん妄」と「持病の悪化」に注意
高齢者は、インフルエンザによるせん妄を起こしやすいだけでなく、特有の注意点があります。
1. 「低活動型せん妄」を見逃しやすい
高齢者のせん妄は、興奮する「過活動型」よりも、ぼんやりして元気がなくなる「低活動型」の割合が高いと言われています。 「熱で疲れているだけだろう」「年のせいかな」と見過ごしてしまいがちですが、これは脳がSOSを出しているサインかもしれません。普段の様子と比べて、「なんだか活気がない」「会話が続かない」「すぐにうとうとしてしまう」といった変化に気づくことが重要です。
2. 持病や服用薬の影響
高齢者は、心臓病、糖尿病、腎臓病などの持病を持っていることが多く、インフルエンザによってそれらの病状が悪化し、せん妄を引き起こすことがあります。また、多くの薬を服用している場合、発熱や脱水で薬の代謝・排泄がうまくいかず、副作用としてせん妄が現れることもあります。
3. 脱水を起こしやすい
高齢者はもともと体内の水分量が少なく、喉の渇きを感じにくい傾向があるため、容易に脱水になります。こまめな水分補給を、家族が意識してサポートしてあげることが非常に大切です。
4. 認知症との鑑別とケア
すでに認知症と診断されている方がインフルエンザになると、せん妄を併発して症状が急激に悪化したように見えることがあります。 この場合も、まずはせん妄の原因となっているインフルエンザの治療と体のケアを優先します。環境を整え、安心できる声かけをするなど、基本的な対応は同じです。
高齢者の「いつもと違う」は、重要なサインです。些細な変化でも、かかりつけ医に相談することをお勧めします。
まとめ:正しい知識は、あなたと家族を守る最強の武器になる
今回は、「インフルエンザ患者のせん妄症状とは」というテーマを、原因から具体的な対処法まで徹底的に掘り下げてきました。最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返りましょう。
インフルエンザで家族がせん妄になると、その異常な姿に誰もが動揺し、恐怖を感じるでしょう。しかし、その正体を知り、何をすべきかが分かっていれば、その恐怖は「冷静な対応」へと変わります。
この記事で得た知識は、いざという時にあなたとあなたの大切な家族を守るための、最強の武器となるはずです。もしもの時は、この記事をもう一度開いて、落ち着いて行動してください。あなたの的確な判断と優しいケアが、ご家族を安心させ、回復への一番の近道となるでしょう。