【刑事事件の9割で争点に!】知らないと損する「責任能力の判断基準」とは?元検事が5つのステップで徹底解説
「また責任能力の話か…」で思考停止してない?実はあなたにも超関係あるんです!
「速報です。〇〇容疑者の責任能力の有無が争点となり…」
ニュースで毎日のように耳にする「責任能力」という言葉。正直、「またか…」「自分には関係ない話だな」なんて、聞き流してしまっていませんか?
もしそうなら、ちょっとだけ待ってください!その判断、もしかしたら将来、あなたやあなたの大切な家族が、思わぬ不利益を被るきっかけになってしまうかもしれません。
「大げさだなあ」と思いますよね。でも、想像してみてください。
- もし、お酒に酔った勢いでトラブルに巻き込まれてしまったら?
- もし、高齢の親が認知症の影響で万引きをしてしまったら?
- もし、お子さんが学校で大きな問題を起こしてしまったら?
これらは、決して他人事ではありません。そして、これらのケースすべてで問題となりうるのが、何を隠そう「責任能力の判断基準」なのです。
この言葉の意味を正しく理解していないと、ニュースの背景が分からないだけでなく、いざという時に冷静な判断ができず、パニックに陥ってしまうかもしれません。
ご安心ください!この記事を最後まで読めば、あなたは次のことを手に入れられます。
- ニュースで飛び交う「心神喪失」「心神耗弱」といった言葉の意味が、誰にでも説明できるレベルで理解できる。
- 複雑怪奇に見える「責任能力の判断基準」が、5つのシンプルなポイントで整理され、頭の中にスッキリと収まる。
- 精神鑑定の裏側で何が行われているのかが分かり、ドラマや映画をより一層楽しめるようになる。
- 「酔っていたから覚えていない」が通用するケースとしないケースの違いなど、身近な疑問が解消される。
- 万が一、自分や家族が当事者になった時に、最初に何をすべきかが明確になる。
この記事は、単なる法律用語の解説書ではありません。法律の知識ゼロの方でも「なるほど!」「面白い!」「誰かに話したい!」と感じていただけるよう、元検事の視点から、具体的なエピソードやSNSでのリアルな声を交えながら、とことん分かりやすく解説していきます。
さあ、あなたも「責任能力」を自分の言葉で語れる、知的な大人への第一歩を踏み出しましょう!
【結論】責任能力の判断基準は「わかってた?」「止められた?」の2つだけ!
難しい話は抜きにして、まずは結論からお伝えします。
刑事事件における「責任能力の判断基準」とは、突き詰めるとたった2つのシンプルな問いに集約されます。
- . 弁識能力: 自分のやっていることが「良いことか、悪いことか」を判断する能力があったか?
- . 制御能力:「悪いことだ」と分かった上で、その行動を思いとどまる(コントロールする)能力があったか?
- 再犯防止: 罪を犯した人を教育し、社会復帰させる。
- 社会の秩序維持: 何が犯罪であるかを社会に示し、犯罪を抑止する。
- 精神病: 統合失調症、躁うつ病(双極性障害)など。特に統合失調症は、幻覚や妄想が犯行に影響を与えやすく、責任能力が争われる事件で最も多いケースです。
- 知的障害(精神遅滞): 知的能力の発達に遅れがある状態。
- 意識障害: アルコールや薬物による酩酊状態、てんかん発作など、一時的なものも含まれます。
- その他の精神障害: 認知症、発達障害、パーソナリティ障害なども、その症状や程度によっては考慮されます。
- Aさん: 「お腹が空いたけどお金がない。見つかったら警察に捕まるけど、店員の見ていない隙に盗んでしまおう」と考え、実行しました。
- この場合、Aさんは自分の行為が「盗み」という悪いことであり、見つかれば捕まることを理解しています。したがって、弁識能力はあったと判断されます。
- Bさん: 重い統合失調症を患っており、「このパンは神様が私に与えてくれた聖なる食べ物だ。代金を払う必要はない」という妄想に支配されていました。
- この場合、Bさんにとってパンを取る行為は「盗み」ではなく、神の啓示に従う正当な行為です。善悪の判断基準そのものが、病気によって歪められてしまっているため、弁識能力がなかった(または著しく低かった)と判断される可能性があります。
- 犯行の動機は「お金が欲しい」という現実的な欲求である。
- これは、うつ病の症状(例えば、抑うつ気分や意欲低下)が直接の原因となって引き起こされた犯行とは言えない。
- したがって、うつ病という精神障害はあったかもしれないが、犯行との直接的な因果関係は薄い。よって、完全責任能力を認める。
- 犯行の動機は「悪魔から身を守るため」という、病的な妄想に基づいている。
- これは、精神障害がなければ起こりえなかった犯行と言える。
- したがって、精神障害と犯行との間に強い因果関係が認められ、心神喪失または心神耗弱と判断される可能性が高くなります。
- 起訴前鑑定:
- 簡易鑑定: 勾留中に医師が1回、30分~1時間程度の問診を行う。比較的軽微な犯罪で実施されることが多い。
- 本鑑定(鑑定留置): 殺人などの重大事件で実施される。被疑者の身柄を2~3ヶ月間、病院や拘置所に移し、継続的に診察や検査を行う。
- 起訴後鑑定(公判鑑定):
- 起訴された後に、弁護側の請求などによって裁判所が実施を決定する鑑定。
- 面接(問診):
- 生育歴、職歴、病歴など、これまでの人生について
- 事件当日の行動や心理状態
- 幻覚や妄想の体験の有無や内容
- 犯行に対する現在の考え
- 心理検査:
- ロールシャッハ・テスト: インクの染みに何が見えるかで、深層心理を探る。
- 知能検査 (WAISなど): 知能指数(IQ)や認知能力を測定する。
- 質問紙法 (MMPIなど): 数百の質問に答えることで、性格や精神的な特徴を客観的に評価する。
- 各種検査:
- 脳波検査、MRI、CTスキャン: 脳に器質的な異常がないかを確認する。
- 血液検査、尿検査: 薬物の影響などを調べる。
- 関係者からの聞き取り:
- 家族、友人、同僚などから、普段の様子や事件前の変化について話を聞く。
- 責任能力が否定される可能性が高いケース:
- 認知症がかなり進行しており、自分がどこにいるのか、何をしているのかをほとんど理解できていない状態。
- お金を払うという概念そのものが失われている。
- 責任能力が認められる可能性が高いケース:
- 初期の認知症で、物忘れはあるものの、日常生活は概ね自立している。
- 「お金を払わなければならない」という認識はあるが、つい忘れてしまった、または出来心で盗んでしまった。
- 店員の目を盗むなど、隠れて行動している。
- 衝動性のコントロールが難しいというADHDの特性が、暴力事件につながった。
- 他人の感情や状況を読み取ることが難しいというASDの特性が、ストーカー行為につながった。
- 接見(面会): 逮捕されると、家族であってもすぐには面会できません。弁護士は、すぐに本人と接見し、状況を把握し、法的なアドバイスを行います。
- 取調べへの対応: 不利な供述調書が作成されないよう、黙秘権などの権利について説明し、適切な対応を助言します。特に責任能力が争われる事件では、本人の言動そのものが重要な証拠となるため、取調べの録音・録画を要求するなど、専門的な対応が不可欠です。
- 証拠の収集: 責任能力を裏付けるための証拠(通院歴のある病院のカルテ、主治医の意見書、家族が記録した日常の様子のメモなど)を確保します。
- 日記やメモ: 事件前から、本人が奇妙な言動をしていたり、体調不良を訴えたりしていませんでしたか?「〇月〇日、壁に向かって話していた」「最近、眠れていないようだ」など、具体的な日付と共に記録しておきましょう。
- メールやSNSの記録: 本人の思考や精神状態が垣間見えるような投稿はありませんか?
- 録音や動画: 会話が噛み合わない様子や、異常な行動を記録したデータも、客観的な証拠となり得ます。
- 責任能力の核心は「弁識能力(善悪の判断力)」と「制御能力(行動のコントロール力)」の2つである。
- この能力が「全くない」のが心神喪失(無罪)、「著しく低い」のが心神耗弱(刑が軽くなる)である。
- 判断は、単に病名で決まるのではなく、「精神の障害が犯行にどう影響したか」という因果関係や、計画性・犯行後の行動といった客観的な状況から総合的に行われる。
- 精神鑑定の結果は重要な参考意見だが、最終的な判断を下すのは裁判官である。
- 万が一当事者になった場合は、すぐに弁護士に相談し、通院歴などの情報を正直に伝え、日常生活の記録を集めることが重要である。
この2つの能力が、精神的な障害などによって、「全くなかった(=心神喪失)」と判断されれば無罪に、「著しく低かった(=心神耗弱)」と判断されれば刑が軽くなるのです。
そして、この判断は、精神科医による「精神鑑定」の結果を参考にしつつも、最終的には検察官や裁判官が、事件前後の状況など様々な証拠を総合的に見て決定します。 医師の鑑定結果が絶対ではない、という点が非常に重要なポイントです。
「え、たったそれだけ?」と思われたかもしれませんね。しかし、このシンプルな原則の裏には、非常に奥深い世界が広がっています。ここから、その詳細を一つひとつ、丁寧に解き明かしていきましょう。
そもそも「責任能力」って何?知らないと恥ずかしい基本のキ
まずは、全ての土台となる「責任能力」の基本的な考え方から押さえていきましょう。ここを理解するだけで、ニュースの見方が180度変わるはずです。
刑事責任の土台となる「責任なければ刑罰なし」の大原則
なぜ、私たちは罪を犯すと罰せられるのでしょうか?それは、「自分の意思で悪いことを選択したのだから、その責任を取るべきだ」という考え方が根底にあるからです。 この「非難できること」が、刑罰の正当性の源泉なのです。
逆に言えば、自分の意思で行動を選択できない人、つまり「良いこと・悪いこと」の区別がつかなかったり、自分をコントロールできなかったりする人を非難し、罰することはできません。 これが「責任なければ刑罰なし」という、近代刑法の大原則です。
この大原則があるからこそ、「責任能力」という概念が必要不可欠になるわけですね。
「心神喪失」と「心神耗弱」の違いを1分で解説!
ニュースで頻繁に登場する「心神喪失」と「心神耗弱」。この2つの言葉は、責任能力の「程度」を表しています。違いは非常にシンプルです。
| 区分 | 状態 | 弁識能力または制御能力の状態 | 刑事裁判の結果 |
|---|---|---|---|
| 心神喪失 | 責任無能力 | 全くない状態 | 罰しない(無罪) |
| 心神耗弱 | 限定責任能力 | 著しく低い状態 | 刑を軽くする(減軽) |
| 完全責任能力 | 責任能力あり | 上記以外(問題なし) | 通常通り処罰される |
ざっくり言えば、「全くダメだったのか(心神喪失)」、それとも「かなりヤバかったけど、ゼロではなかったのか(心神耗弱)」の違い、と覚えておけばOKです。 心神喪失で無罪になるケースは日本全国でも年に数件と非常に少なく、ほとんどの事件では完全責任能力か、争っても心神耗弱と判断されます。
なぜ責任能力がないと罰せられないの?意外と知らないその理由
「悪いことをしたのに無罪なんておかしい!」と感じる方は少なくないでしょう。その気持ちは、人間としてごく自然なものです。しかし、法律がそう定めているのには、明確な理由があります。
刑罰の目的は、単なる「報復」だけではありません。
これらの目的を考えたとき、物事の善悪が分からない人に刑罰を与えても、その意味を理解できず、教育的な効果は期待できません。 むしろ、必要なのは罰ではなく、専門的な治療です。
そこで、心神喪失で無罪や不起訴になった場合は、「野放し」になるわけではなく、医療観察法という法律に基づき、裁判所の決定によって専門の医療機関へ入院し、治療を受けることになります。 この制度によって、社会の安全とご本人の治療・社会復帰の両立が図られているのです。
【SNSの声】「無罪は納得できない!」世間の疑問にプロが答えます
重大事件で責任能力が問われるたびに、SNSでは様々な意見が飛び交います。
> 「また心神喪失で無罪か…。被害者は浮かばれないよな。」 > 「精神疾患なら何しても許されるっておかしくない?正直、言ったもん勝ちに見える。」 > 「鑑定した医者によって結果が変わりそうだし、本当に公正な判断なのか疑問。」
こうした意見は、被害者の方々を思う気持ちから出るものであり、決して間違いではありません。しかし、法律家、特に元検事という立場で少し補足させていただくと、責任能力の判断は、決して「病気だから」という単純な理由だけで行われるものではありません。
重要なのは、「その精神の障害が、犯行にどう影響したのか?」という点です。 たとえ統合失調症という診断があったとしても、その症状が犯行と無関係であれば、責任能力は認められます。 裁判では、病名だけでなく、犯行前の生活状況、動機、手口、犯行後の言動など、あらゆる角度から検証し、慎重に判断が下されているのです。
【核心】責任能力の判断基準、5つの重要ポイントを徹底解剖!
さて、基本を押さえたところで、いよいよ本題の「責任能力の判断基準」について、さらに深く掘り下げていきましょう。裁判所は、具体的にどのような要素を見て判断しているのでしょうか?ここでは、特に重要な5つのポイントに絞って解説します。
ポイント1:精神の障害(生物学的要素)- どんな病気が対象になる?
責任能力が問われる大前提として、まず「精神の障害」の存在が必要です。 これは法律用語で「生物学的要素」と呼ばれます。
具体的には、以下のようなものが含まれます。
【プロの視点】病名だけでは決まらない!
よくある誤解が、「統合失調症だから無罪」というような、病名と結果を短絡的に結びつけてしまうことです。しかし、実務では全く違います。重要なのは、診断名そのものではなく、「犯行当時、その精神の障害がどの程度、物事の判断や行動のコントロールに影響を与えていたか」という点に尽きます。 これが次の心理学的要素につながるのです。
ポイント2:弁識能力(心理学的要素①)- 「良いこと・悪いこと」が分かるか?
精神の障害の存在が認められた上で、次に検討されるのが「弁識能力」です。 これは、自分の行為が法的に許されない「悪いこと」だと認識できる能力を指します。
【なるほど!エピソード】万引きで考える弁識能力
スーパーでパンを盗んだAさんとBさんがいるとします。
このように、同じ「万引き」という行為でも、その人が内心でどう認識していたかによって、弁識能力の評価は大きく変わってくるのです。
ポイント3:制御能力(心理学的要素②)- 「ダメだ」と思ってもやめられるか?
弁識能力があったとしても、それだけでは責任能力があるとは断定できません。もう一つの重要な要素が「制御能力」です。 これは、「悪いことだ」と分かっていても、精神的な障害の影響で、その行動を思いとどまることができない状態を指します。
【意外な発見】「分かっちゃいるけど、やめられない」は病気のせい?
例えば、衝動的に窃盗を繰り返してしまう「クレプトマニア(窃盗症)」という精神疾患があります。彼らは、盗む瞬間以外は「盗みは悪いことだ」「捕まりたくない」と強く思っています。しかし、衝動に駆られると、その気持ちを抑えることができず、盗みを実行してしまうのです。
このようなケースでは、「弁識能力はあったが、精神の障害によって制御能力が著しく低かった」と判断され、心神耗弱と認定される可能性があります。
弁識能力と制御能力は、どちらか一方でも「ない」または「著しく低い」と判断されれば、心神喪失や心神耗弱に該当しうるのです。
ポイント4:因果関係 – 精神の障害が犯行にどう影響したか?
これが最も重要で、最も判断が難しいポイントです。つまり、「精神の障害」と「犯行」との間に、直接的な結びつき(因果関係)があるかどうかです。
【多くの人がやりがちな失敗談(の思考)】
「被告人はうつ病だったらしい。だから、追いつめられてあんな事件を起こしたんだ。きっと心神耗弱になるだろう」
このように考えてしまうのは、自然なことです。しかし、裁判所はもっとシビアに見ます。
例えば、うつ病の人がお金に困って強盗をしたとします。この場合、裁判所はこう考えます。
逆に、統合失調症の人が「隣人は私を殺そうとしている悪魔だ」という妄想に支配され、隣人を襲ってしまった場合はどうでしょうか。
このように、単に精神障害があるだけでは不十分で、その障害が犯行の引き金になったと評価できるかどうかが、判断の分かれ目となるのです。
ポイント5:犯行前後の客観的な状況
最終的な判断は、本人の供述だけでなく、客観的な証拠に基づいて行われます。 裁判官や裁判員は、まるで探偵のように、犯行前後の状況から本人の精神状態を推測していくのです。
【判断材料となる客観的状況の例】
| 状況 | 責任能力が「ある」と判断されやすい要素 | 責任能力が「ない」と判断されやすい要素 |
|---|---|---|
| 計画性 | 凶器を事前に準備している、下見をしている | 突発的・衝動的な犯行 |
| 犯行態様 | 目的が合理的(金品目的など) | 動機が理解不能、奇異な行動を伴う |
| 犯行後の行動 | 証拠隠滅を図る、逃走する | 犯行現場に呆然と立ち尽くす、自ら通報する |
| 元々の人格 | 犯行が元々の性格の延長線上にある | 普段の人柄からは考えられない突飛な行動 |
これらの要素を総合的に考慮し、「犯行当時、本当に物事の善悪を判断し、行動を制御する能力がなかった(または著しく低かった)のか?」という問いに対する答えを、裁判所は導き出していくのです。
精神鑑定のリアルな裏側!鑑定医は何をどう見ているのか?
責任能力の判断で欠かせないのが「精神鑑定」です。 ドラマなどでは、数回の面談で「あなたは心神喪失です」と結論が出るような描かれ方をしますが、現実はもっと複雑で緻密なプロセスを経ています。
精神鑑定って誰がやるの?いつ、どこで?
精神鑑定は、裁判所や検察官から依頼を受けた精神科医が行います。 鑑定が行われるタイミングによって、いくつかの種類に分けられます。
鑑定で聞かれること、調べられることリスト
鑑定医は、多角的なアプローチで対象者の精神状態を評価します。
これらの情報をパズルのように組み合わせ、鑑定医は「犯行当時、対象者がどのような精神状態にあったか」という意見をまとめた鑑定書を作成します。
【失敗談】「こう答えたら有利になる」は通用しない!鑑定をごまかせない理由
被疑者の中には、「精神病のフリをすれば、罪が軽くなるかもしれない」と考える人もいます。しかし、これはほぼ不可能です。
【創作エピソード:佐藤さん(仮名)の誤算】
強盗事件で逮捕された佐藤さんは、取調べでわざと支離滅裂なことを話し、精神鑑定に持ち込むことに成功しました。鑑定では、「頭の中で声が聞こえるんです…」と幻聴があるフリをしました。 しかし、百戦錬磨の鑑定医は、佐藤さんの話の矛盾点や、受け答えの不自然さ、心理検査の結果などから、彼が病気を装っていること(詐病)を簡単に見抜いてしまいました。 鑑定書には「精神障害は認められず、責任能力に問題はない。詐病の可能性が高い」と記載され、佐藤さんは結局、重い刑罰を科されることになったのです。
プロの鑑定医は、話の内容だけでなく、表情、態度、視線、各種検査結果との整合性など、あらゆる情報を分析しています。 付け焼き刃の演技で、専門家をだますことはできないのです。
鑑定結果は絶対じゃない!裁判官はどう判断する?
非常に重要なことですが、精神鑑定の結果は、あくまで専門家の「意見」であり、裁判所を法的に拘束するものではありません。 責任能力の有無を最終的に判断するのは、法律の専門家である裁判官(と裁判員)です。
裁判所は、鑑定書の内容を十分に尊重しつつも、他のすべての証拠(目撃者の証言、防犯カメラの映像、被告人の犯行後の行動など)と照らし合わせ、鑑定結果が妥当かどうかを独自の視点で吟味します。
そのため、鑑定で「心神喪失の疑い」という意見が出ても、裁判では「心神耗弱」や「完全責任能力」と認定されることもありますし、その逆のケースも存在します。この点が、責任能力判断の難しさであり、奥深さでもあるのです。
こんなケースはどうなる?身近な疑問で学ぶ責任能力の判断基準
ここからは、より具体的なケースを基に、責任能力の判断基準がどのように適用されるのかを見ていきましょう。あなたやあなたの周りで起こるかもしれない、身近な疑問にお答えします。
ケース1:お酒に酔って記憶がない!「酩酊状態」での犯行
「お酒の席でのトラブル」は、誰にでも起こりうる問題です。では、「酔っていて覚えていない」という言い分は、法的にどこまで通用するのでしょうか?
結論から言うと、ほとんどの場合は通用せず、完全責任能力が認められます。
法律上、酩酊状態は以下のように分類され、責任能力の判断も異なります。
| 酩酊の種類 | 状態 | 責任能力の判断 |
|---|---|---|
| 単純酩酊 | いわゆる普通の「酔っ払い」。気が大きくなる、理性が低下するが、意識はある。 | 原則、完全責任能力 |
| 複雑酩酊 | いわゆる「悪酔い」。少量の飲酒で、普段の人格からは考えられないような興奮や攻撃性を示す。 | 心神耗弱と判断される可能性がある |
| 病的酩酊 | アルコールが引き金となり、幻覚や妄想など、精神病に近い症状が出現する。行動の記憶が全くない(ブラックアウト)。 | 心神喪失と判断される可能性がある |
ポイントは、異常な酩酊状態(複雑酩酊・病的酩酊)であったことを証明できるかどうかです。 しかし、これを証明するのは極めて困難です。「病的酩酊」と判断されるのは、アルコール依存症の既往があるなど、ごく例外的なケースに限られます。
したがって、「酔って覚えていない」というだけで責任を免れることは、まずないと考えておくべきでしょう。
ケース2:認知症の高齢者が万引き…責任能力は問われる?
高齢化社会が進む中で、認知症の高齢者による万引きやトラブルは深刻な社会問題となっています。この場合、責任能力はどのように判断されるのでしょうか。
これは、認知症の症状の程度や、犯行時の状況によってケースバイケースで判断されます。
認知症だからといって、一律に責任能力が否定されるわけではありません。 犯行時の言動や、普段の生活状況などを総合的に見て、個別に判断されることになります。
ケース3:14歳未満の少年はなぜ罪に問われない?「刑事未成年」との関係
日本では、刑法第41条により「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定められています。 これは、年齢を一律の基準として、14歳未満の子どもには物事の善悪を判断する能力(責任能力)が備わっていない、と法律が判断しているためです。
この14歳未満の子どもたちは「刑事未成年者」と呼ばれます。
| 年齢区分 | 呼び名 | 処遇 |
|---|---|---|
| 14歳未満 | 刑事未成年者(触法少年) | 刑罰は科されない。少年法に基づき、児童相談所の判断で、保護処分などがとられる。 |
| 14歳以上20歳未満 | 少年 | 原則として少年法が適用される。家庭裁判所で審判を受け、保護処分または検察官送致(逆送)が決定される。 |
つまり、14歳未満の場合は、精神状態などを個別に判断するまでもなく、年齢だけで一律に責任能力がないと扱われるのです。 これは、子どもの発達段階に配慮した政策的な判断と言えるでしょう。
ケース4:「発達障害」は責任能力の判断にどう影響する?
近年、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった発達障害への理解が深まっています。では、発達障害があることは、責任能力の判断にどう影響するのでしょうか?
これも、発達障害があるというだけですぐに責任能力が否定・軽減されるわけではありません。 重要なのは、発達障害の特性が、どのように犯行と結びついたのかという点です。
例えば、
といったケースでは、その特性が「制御能力」や「弁識能力」を著しく低下させていた、と評価され、心神耗弱と判断される可能性はあります。
しかし、多くの場合、発達障害は「犯行に至る背景の一つ」としては考慮されるものの、責任能力そのものを左右する決定的な要因とはなりにくいのが実情です。ここでもやはり、犯行の計画性や動機といった客観的な状況が重視されることになります。
もしも自分や家族が当事者になったら?知っておくべき3つのこと
万が一、ご自身や大切なご家族が刑事事件の当事者となり、責任能力が問われるような事態になった場合、どうすればよいのでしょうか。パニックにならず、冷静に行動するために、知っておくべき3つのステップをご紹介します。
ステップ1:すぐに弁護士に相談する重要性
何よりもまず、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士に相談してください。 逮捕直後の72時間は、その後の人生を左右すると言っても過言ではないほど重要な時間です。
弁護士は、以下のような活動を通じて、あなたやご家族を強力にサポートしてくれます。
国選弁護人制度もありますが、より迅速で手厚いサポートを望むのであれば、私選弁護人への依頼を検討することをお勧めします。
ステップ2:精神科の通院歴は正直に話すべき?
もし、本人に精神科への通院歴や、精神疾患の診断歴がある場合は、隠さずに正直に弁護士に話してください。
「精神病だと知られたら、偏見を持たれるかもしれない…」と不安に思う気持ちは分かります。しかし、責任能力を争う上では、過去のカルテは非常に有力な証拠となります。 それは、事件後に「精神病のフリ」をしているわけではなく、事件前から精神的な問題を抱えていたことを客観的に証明してくれるからです。
弁護士は守秘義務を負っています。あなたやご家族のプライバシーを守りながら、最善の弁護活動を行ってくれますので、安心して全てを打ち明けてください。
ステップ3:日常生活の記録が「武器」になる!
家族だからこそ集められる、強力な証拠があります。それは、本人の日常生活の記録です。
こうした「生きた情報」は、鑑定医や裁判官が本人の精神状態を判断する上で、非常に貴重な資料となります。普段の何気ない記録が、いざという時にあなたの大切な人を守る「武器」になるのです。
まとめ
今回は、「責任能力の判断基準」という、少しとっつきにくいテーマを詳しく解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。最後に、この記事の重要なポイントを振り返っておきましょう。
「責任能力」を正しく理解することは、難解なニュースの裏側を読み解く「知的なメガネ」を手に入れるようなものです。そしてそれは、いつかあなたやあなたの大切な人を守るための「知識の盾」にもなり得ます。
この記事が、あなたの日常を少しでも豊かにし、いざという時に冷静に行動するための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
