旭化成の2025年最新動向:水素、M&A、DXで未来を切り拓く
はじめに
総合化学メーカーとして多岐にわたる事業を展開する旭化成は、2025年もその革新的な技術と戦略で注目を集めています。特に、脱炭素社会の実現に向けた水素関連事業の拡大、企業成長を加速させるM&A戦略、そして全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、今後の旭化成の成長を大きく左右する重要なキーワードとなっています。この記事では、直近数日内の最新ニュースを中心に、旭化成がどのように未来を切り拓いているのかを詳しく解説していきます。
フィンランドでの水素プロジェクトが本格始動!
旭化成は、脱炭素社会の実現に向けて、グリーン水素の製造技術開発と事業化に積極的に取り組んでいます。2025年7月30日には、フィンランドのCentral Finland地区で推進されている脱炭素プロジェクトにおいて、1メガワット級のコンテナ型アルカリ水電解システム「Aqualyzer™-C3」を受注したことを発表しました。このプロジェクトは、フィンランドで初めてとなる商用水素ステーションの開設に合わせて、その隣接地に旭化成のシステムが設置される予定です。
「Aqualyzer™-C3」は、1時間あたり約3台分の燃料電池車(FCV)を充填できるグリーン水素を製造する能力を持っています。 フィンランドのユバスキュラ市は冬季に厳しい寒さとなるため、寒冷地環境におけるアルカリ水電解システムを含む水素供給インフラや燃料電池車の運用実証を行う上で重要な拠点となります。旭化成は、凍結リスクなどの寒冷地特有の課題に対応しながら実証を進めることで、フィンランドを含む寒冷地における水素社会の実現に貢献していく考えです。
この受注は、旭化成の水素関連事業が本格的な事業化フェーズへと移行したことを意味しています。 旭化成は、これまで培ってきたイオン交換膜法食塩電解事業の顧客基盤や技術を水素関連事業に応用し、多様なパートナーとの協業を推進しています。 今後もグリーン水素の需要動向に応じ、コンテナ型システムから大規模システム「Aqualyzer™」まで、幅広いソリューションを柔軟に提供し、脱炭素社会の実現に貢献していくとしています。
旭化成は、水素関連事業を将来の成長ドライバーとなる「戦略的育成」事業の一つと位置づけ、積極的な投資を行っています。 また、2025年4月には、アニオン交換型の水電解装置用の膜(AEM)を開発するカナダのスタートアップ企業Ionomr Innovations Inc.への出資参画も決定しており、水素製造技術の強化にも余念がありません。
業績予想の上方修正と新たな中期経営計画の進捗
旭化成は、2025年7月31日に2025年4月~9月期(2026年3月期中間期)の連結営業利益予想を従来の950億円から1050億円に上方修正すると発表しました。 これは、前年同期比では3.6%の減少となりますが、ヘルスケア領域の販売数量増加やマテリアル領域での固定費削減が寄与したとのことです。 一方で、売上高の見通しは、住宅領域の売り上げ減少を理由に、従来の1兆5120億円から1兆5040億円に下方修正されました。 通期の連結営業利益予想は、前年比1.5%増の2150億円で据え置いています。
2025年4月10日には、旭化成グループの新たな中期経営計画「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」が発表されました。 この計画では、2027年度に営業利益2700億円、ROIC(投下資本利益率)6.0%、ROE(自己資本利益率)9.0%の実現を目指しています。 さらに、2030年度には営業利益3800億円、ROIC8%以上、ROE12%以上の達成を長期展望として掲げています。
新中期経営計画の基本方針は、「投資成果創出による利益成長」「構造転換や生産性向上による資本効率改善」「Diversity×Specialtyの進化」の3点です。 2025年度から2027年度までの3年間で、前中期経営計画期間とほぼ同額の1兆円の投資(意思決定ベース)を予定しており、そのうち約6700億円を拡大関連投資に充当するとしています。
特にヘルスケア領域ではM&Aを中心に拡大を図り、住宅領域でも国内外での成長投資を検討しています。 マテリアル領域では、交換膜や水素関連、電子材料など、対象を厳選して投資を行う一方で、3年間でマテリアル領域全体の売上高の約20%に相当する構造転換を進める計画です。
事業ポートフォリオの変革とM&A戦略
旭化成は、持続的な成長と企業価値向上を目指し、事業ポートフォリオの変革を積極的に推進しています。その重要な手段の一つがM&A(合併・買収)です。
医薬事業と海外住宅事業の拡大に向けたM&A
旭化成は、M&Aを活用して医薬事業と海外住宅事業を拡大する方針を明確にしています。 両事業ともに市場の成長が見込めることから、重点成長事業に位置付け、企業買収に積極的な投資を行うことを決定しました。
医薬事業では、免疫や移植の周辺疾患領域に特化した世界的な製薬会社への成長を目指し、事業基盤やパイプライン(新薬の候補物質)強化のためのM&Aやライセンス導入を進める計画です。これらの取り組みに、2028年3月期までの3年間で300億円を投じる予定です。
海外住宅事業では、米国とオーストラリアでの事業エリア拡大やシェアアップを目標に、企業買収を検討しています。
ヘルスケア事業再編と旭化成ライフサイエンスの始動
2025年4月1日、旭化成は血液浄化事業(透析・アフェレシス)などを担う旭化成メディカルの株式を譲渡し、新たに旭化成ライフサイエンス株式会社を設立し、ウイルス除去フィルター「プラノバ™」をはじめとする事業を承継しました。 旭化成ライフサイエンスは、これまでのバイオプロセス事業を起点にライフサイエンス領域にフォーカスし、革新的かつ信頼性の高い製品・サービスの提供を通じて、製薬企業のプレミアムパートナーとして医薬品産業の発展に貢献するとともに、旭化成グループのヘルスケア領域の中核事業の一つとしてさらなる成長を目指しています。
「プラノバ™」や医薬品製造プロセス用装置などの製品は、抗体医薬や血漿分画製剤、核酸医薬などの安全性と生産性向上に貢献しており、新製品「プラノバ™ FG1」や合成カラム「THESYS™ SCS / ACS Columns」は製薬企業から高い評価を得ています。 医薬品の堅調な需要拡大を背景に販売は拡大しており、2023年には米国・イリノイ州で医薬品製造プロセス用装置の製造能力を増強、2024年には宮崎県・延岡市で「プラノバ™」の新成型工場が完成するなど、積極的な投資が行われています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速
旭化成は、企業価値向上と持続可能な社会の実現に向けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させています。
5年連続「DX銘柄」選定の快挙
2025年4月11日、旭化成は経済産業省が東京証券取引所および情報処理推進機構(IPA)と共同で実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」に選定されました。 これは2021年から5年連続の選定となり、旭化成のDX推進への継続的な取り組みと実績が高く評価されていることを示しています。
旭化成は、「私たち旭化成はデジタルの力で境界を越えてつながり、“すこやかなくらし”と“笑顔のあふれる地球の未来”を共に創ります」という「DX Vision 2030」を掲げています。 このビジョンのもと、2024年までにデジタル人材を10倍に増やし、データ活用量も10倍に拡大する「DX-Challenge 10-10-100」という計画を立て、累計100億円の収益改善を目指しています。
デジタル共創本部が牽引するDX戦略
旭化成は、DX推進を全社規模で実施するため、「デジタル共創本部」を設置しています。 この本部は、データの活用や人材育成を含め、DX戦略の中心的役割を担い、全社的なデジタル化の推進計画を策定し、各事業部門との連携を通じて変革をリードしています。
具体的なデジタル技術の活用例としては、AIを活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)による新素材の研究開発加速が挙げられます。 これにより、競争力強化だけでなく、コスト削減や時間短縮も実現しています。 また、製造現場ではIoTやAI技術を導入し、スマートファクトリー化を進めています。
新中期経営計画においても、デジタルなどの無形資産を活用した価値提供に向けて、グループ全体で現場密着でのDXによる新たな価値を創造し、今後はソリューション型事業の加速、ライセンス型事業の価値最大化を強化していく方針です。
オープンイノベーションによる共創の推進
旭化成は、自社単独での技術革新だけでなく、外部パートナーとの連携によるオープンイノベーションも積極的に推進しています。
「Asahi Kasei Value Co-Creation Table 2025」の開始
2025年7月30日、旭化成は日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」と共同で、未来の可能性を共に考えるプログラム「Asahi Kasei Value Co-Creation Table 2025」を開始しました。 このプログラムは、2022年度から続く4期目の取り組みで、「次世代のサステナブル」を共に切り開くエントリー企業を募集しています。
募集テーマは以下の3つです。
1. **「3Dプリンター=試作品」の壁を超える(用途探索):** 3Dプリンターによる製造プロセス変革や部品製造の最適化を目指し、新たな材料や技術の活用を模索しています。 具体的には、3Dプリンターを用いることで部品製造の工程短縮や金型レスを実現したい企業、パーソナライズ製品や少量多品種のカスタム部品作成を実現したい企業などがパートナーとして想定されています。
2. **より軽く!よりエコに!部品製造の最適化(新規事業モデル):** 製品のCO2削減を目的とした部品の軽量化、材料低減、製造エネルギー削減を図りたい企業や、製造拠点を持たずに製品設計・製造を実現したい企業などを求めています。 旭化成が蓄積してきたCAE技術を活用し、最適な部品設計や金属部品から樹脂への置き換えを行うことで、コストダウン、軽量化、CO2排出量削減を実現する新たな事業展開を目指しています。
3. **先端医療を多くの人に届ける(用途探索):** 医療グレードの分離・吸着技術を活用し、先端医療の普及・発展を支えることを目指しています。 製薬やバイオ、食品、機能化学品製造プロセスにおいて精製・ろ過プロセスに課題を抱えている企業や、熱エネルギーや廃液を削減し環境対応型プロセスを目指す企業などをパートナーとして募集しています。 旭化成は、医療分野で培った血液を浄化する技術や知見を応用し、製造工程における分離・精製のより効率的なプロセスの構築可能性を探っています。
旭化成は、事業部門や研究開発部門が本プログラムにコミットし、応募アイデアごとに各テーマの共創可能性を探索する体制を整えています。 また、多様な事業・技術を展開する旭化成グループが有するさまざまなアセットを横断的に活用できることも、本プログラムの大きなメリットとしています。
環境・エネルギー分野への貢献
旭化成は、地球環境の保全と経済成長を両立させる「持続可能な社会への貢献」を重要な経営目標として掲げています。
脱炭素社会実現への取り組み
旭化成は、2050年の脱炭素化を目指し、2030年までに自社グループが排出する温室効果ガスを2013年度比で30%以上削減する新たな目標を掲げています。 水素関連事業の強化はその一環であり、フィンランドでのアルカリ水電解システム受注はその具体的な進展と言えるでしょう。
また、住宅事業を担う旭化成ホームズは、RE100(事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアティブ)の目標達成見込みを2025年に前倒ししています。 これは、グループ会社が運営する電力小売り事業「へーベル電気」を通じて、太陽光発電システムを搭載したヘーベルハウス・へーベルメゾンオーナーから卒FIT(固定価格買取制度期間満了)を迎えた電力を買い取り、旭化成の事業活動で消費する電力に充当するスキームが奏功したものです。
リチウムイオン電池用セパレータの供給体制強化
電動車の普及に伴い需要が拡大するリチウムイオン電池(LIB)向けセパレータ事業も、旭化成の重要な環境貢献分野です。2025年7月31日、旭化成の連結子会社であるAsahi Kasei Battery Separator America, LLC(AKBSA)と豊田通商の子会社であるToyota Tsusho America, Inc.(TAI)が、車載用LIB向けセパレータ「ハイポア™」のキャパシティライト契約を締結しました。
この契約により、AKBSAは現在新設中の米国ノースカロライナ州シャーロット工場のセパレータ塗工設備から、2027年中ごろよりTAI向けに「ハイポア™」を供給する予定です。 本契約を通じて、旭化成は市場の変動リスクを軽減しつつ、リソースを効率的に活用しながら安定的な供給を維持します。 豊田通商は、シャーロット工場で製造されたLIB用セパレータを北米の車載用LIBメーカーへ安定的に供給することで、車載用電池サプライチェーンの構築を推進していきます。 両社の強みを掛け合わせることで、高品質なセパレータをLIB向け材料市場に展開し、高性能な電動車の普及とカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指しています。
電子材料分野の技術革新
旭化成は、電子材料分野においても技術革新を進め、社会の発展に貢献しています。
「国際電子回路産業展」での新技術展示
2025年6月4日から6日に東京ビッグサイトで開催された「第54回国際電子回路産業展(JPCA Show 2025)」に、旭化成は出展し、電子回路の設計や製造に貢献する開発中の3つの技術やコンセプトを展示しました。
展示された主な技術は以下の通りです。
* **ノンハロゲンウレタンアクリレート:** CO2誘導体を活用した独自技術で製造したイソシアネートを原料とすることで、ノンハロゲン化を実現。ソルダーレジスト(プリント基板の表面に塗布される保護材料)など、高い絶縁性を要する部位への活用が期待されています。
* **酸化銅ナノインク:** 粒径が小さいCu2O(酸化第一銅)を主成分とし、粘度や溶媒が任意に選択可能で、幅広い印刷方式に対応します。100μm幅の微細な三次元配線が可能で、この技術を活用したメタマテリアル作成技術のコンセプト展示も行われました。 メタマテリアルは、電磁波や音波の制御が可能で、通信機器の高性能アンテナやノイズ低減材料などに活用される人工的な構造材料です。
* **ケイ素系光学接着剤:** 高い透明性と高出力短波長光への耐性を両立するだけでなく、分子構造と製造プロセス最適化によって、材料由来の低分子シロキサンガス発生を検出下限以下に抑制します。 電子部品などに付着すると接触不良などの原因となる低分子シロキサンガスの発生抑制は、電子材料分野において重要な技術です。
これらの技術は、旭化成が電子材料分野で培ってきた高度な技術力を示しており、今後の電子機器の高性能化や環境負荷低減に貢献することが期待されます。
まとめ
旭化成は、2025年も「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つの事業領域を軸に、多角的な事業展開と積極的な投資を進めています。特に、脱炭素社会の実現に向けた水素関連事業の本格化、M&Aによる医薬・海外住宅事業の拡大、そしてDXを核とした企業変革は、今後の旭化成の成長戦略を象徴する動きと言えるでしょう。
フィンランドでのアルカリ水電解システム受注に代表される水素事業の進展は、旭化成が掲げる「戦略的育成」事業の具体化であり、カーボンニュートラル社会への貢献に大きく寄与します。また、ヘルスケア事業の再編と旭化成ライフサイエンスの設立は、より専門性と成長性の高い分野へのリソース集中を意味しています。
DXについては、5年連続での「DX銘柄」選定が示すように、デジタル技術の活用が企業文化として根付いています。オープンイノベーションプログラム「Asahi Kasei Value Co-Creation Table 2025」を通じて、外部パートナーとの共創を加速させる姿勢も、未来を見据えた旭化成の強みと言えます。
業績面では、中間期の営業利益予想を上方修正するなど、堅調な推移を見せており、新たな中期経営計画「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」の目標達成に向けて着実に歩みを進めていることが伺えます。
旭化成は、社会課題の解決と持続的な企業価値向上を両立させる「2つのサステナビリティ」を追求し、イノベーションを通じて常に新たな価値を創造し続ける企業として、2025年以降もその動向から目が離せません。