2024年最新速報:キャッシュオンデリバリーの現在地と進化する決済トレンド
はじめに
インターネットを通じた商品やサービスの購入が日常となった現代において、決済方法は多岐にわたり、日々進化を遂げています。その中でも、古くから存在する決済手段の一つが「キャッシュオンデリバリー(Cash on Delivery、通称COD)」、すなわち代金引換払いです。消費者は商品を受け取る際に代金を支払うという安心感があり、特定の層からの根強い支持を得てきました。しかし、スマートフォン決済や後払い決済など、新たなキャッシュレス決済手段が急速に普及する中で、CODはどのような立ち位置にあるのでしょうか。本記事では、2024年におけるキャッシュオンデリバリーの最新動向を網羅的に調査し、キャッシュレス化の波、EC市場の拡大、物流業界の課題、そして不正対策の観点から、その現状と将来展望について詳しく解説してまいります。
キャッシュレス化の加速とCODの立ち位置
日本におけるキャッシュレス決済の普及は、近年目覚ましい進展を見せています。経済産業省が発表したデータによると、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%に達し、政府が掲げていた「2025年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度にする」という目標を前倒しで達成しました。2023年のキャッシュレス支払額は総額で126.7兆円となり、これは2023年12月末時点の現金発行残高と同水準にまで迫っています。この数字は、日本社会全体で現金の利用が減り、デジタル決済への移行が急速に進んでいることを明確に示しています。
このような社会全体のキャッシュレス化の進展は、現金での支払いを基本とするキャッシュオンデリバリー(COD)に直接的な影響を与えています。特に、QRコード決済やタッチ決済といったコード決済が若年層を中心に広がりを見せ、現金決済への志向が大きく低下していると指摘されています。これは、スマートフォン一つで手軽に決済が完了する利便性、ポイント還元などの経済的なメリットが消費者に強く認識されているためと考えられます。
かつて、CODはクレジットカードを持たない層や、オンライン決済に抵抗がある消費者にとって重要な選択肢でした。しかし、現在では、デビットカードの普及、オンラインバンキングを介した直接振込、そして後払い決済サービスなど、多様な代替手段が登場しています。これらの手段は、現金を持ち歩く必要がなく、かつクレジットカードのような事前審査が不要なものも多いため、従来のCOD利用層の一部を取り込んでいる状況です。
中小企業においても、キャッシュレス決済への対応は重要な課題となっています。キャッシュレス対応は、顧客層の拡大や売上の向上に繋がる可能性があるため、多くの事業者が導入を進めています。現金取引が減少することで、店舗側の現金管理コスト削減や業務効率化といったメリットも生まれています。これは、CODのような現金取引を伴う決済方法が、店舗運営の効率化という観点から、相対的に非効率と見なされる傾向にあることを意味しています。
また、キャッシュレス決済は、決済額ベースで7割を超えるまでに大幅に増加しており、社会全体としてキャッシュレスが「必須のツール」であるという認識が広がっています。これは、単に個人の利便性向上だけでなく、社会全体の生産性向上にも寄与すると考えられています。このような流れの中で、CODが今後も一定の需要を維持しつつも、その利用割合は徐々に低下していく可能性が高いと言えるでしょう。
しかし、CODが完全に姿を消すわけではありません。特定の地域や、高齢者層など、依然として現金での支払いを好む消費者層は存在します。また、オンラインで商品を購入する際に、商品の状態を確認してから支払いたいというニーズを持つ消費者もいます。このようなニッチな需要に応える形で、CODは今後も特定の市場セグメントでその存在感を示し続けるでしょう。重要なのは、EC事業者や物流事業者が、多様な決済ニーズに対応しつつ、効率的なオペレーションをいかに両立させるかという点にあります。
EC市場の拡大と多様化する決済手段
日本のEC(Eコマース)市場は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機にさらに拡大し、現在もその成長が続いています。矢野経済研究所の調査によると、国内のオンライン決済サービス市場は2023年度に前年度比114.5%の32兆2,517億円と推計されており、2024年度にはさらに成長し、37兆4,944億円に達すると予測されています。さらに、2028年度には約63兆円規模にまで拡大すると見込まれており、EC市場全体の活況を背景に、決済サービスの需要も高まっています。
このようなEC市場の拡大に伴い、消費者の決済手段に対するニーズも多様化しています。かつてはクレジットカード決済がECサイトにおける主要な決済手段として圧倒的なシェアを占めていましたが、その状況に変化が見られます。SBペイメントサービス株式会社が2024年7月に公開したECサイトにおける決済手段の利用実態調査(5回目)によると、クレジットカード決済の利用率は減少傾向にあり、2018年から2023年の6年間で、物品購入時で19.3%、デジタルコンテンツ購入時で26.2%も減少しています。
代わりに台頭しているのが、モバイル決済サービスです。同調査では、「PayPay(オンライン決済)」がクレジットカード決済に次いで2位の利用率となっており、特に10代の男女ではPayPayが最も利用されている決済手段となっています。また、楽天ペイやAmazon PayといったID決済サービスも利用者数を伸ばしています。aishipが2024年4月から2025年3月の期間に行った調査では、クレジットカードが57.1%で首位を維持しつつも、Amazon Payが13.6%、PayPayが6.5%、そして後払い決済が6.2%と、多様な決済手段が消費者に利用されている実態が明らかになっています。
これらの新しい決済手段は、クレジットカード情報を直接入力する手間を省き、IDやパスワードだけで手軽に決済できる利便性を提供しています。また、各サービスが提供するポイント還元やキャンペーンも、消費者の利用を促す大きな要因となっています。
一方、キャッシュオンデリバリー(COD)は、ECサイトにおける「代引き系サービス」の一つとして分類されます。日本では現金主義が根強く、商品が手元に届いてから支払うという安心感から、長らく一般的な決済方法として利用されてきました。しかし、事業者側から見ると、CODにはいくつかの課題が存在します。最も大きなリスクは、長期不在や受け取り拒否、さらにはいたずら注文によって、商品が顧客に届かず、かつ代金も支払われないというケースが発生することです。このような場合、事業者は商品の往復送料や保管費用、さらには再配達の手間といった金銭的・時間的コストを負担することになります。このリスクを避けるため、一部のEC事業者ではCODの導入を見送るケースも見られます。
また、CODは決済処理が対面で行われるため、配達員が現金を扱う手間や、釣り銭の準備、日々の現金回収・精算といった業務が発生します。これは、ECサイト全体の決済フローから見ると、デジタル化された他の決済手段と比較して、効率性の面で劣ると言わざるを得ません。
ECサイト運営者にとって、決済手段の選択は顧客の購買体験と売上に直結する重要な要素です。決済手段が不足している場合、利用者の55%以上が購入を諦めてサイトを離脱するという調査結果もあります。そのため、クレジットカード決済はもちろんのこと、PayPay、Amazon Pay、そして後払い決済など、顧客ニーズの高い多様な決済手段を導入することが、現在のEC市場で競争力を維持するために不可欠とされています。CODもその多様な選択肢の一つではありますが、上記のような課題と、キャッシュレス化の進展を考慮すると、その重要性は相対的に低下し、他のより効率的でリスクの少ない決済手段へのシフトが加速しているのが現状と言えるでしょう。
後払い決済(BNPL)の台頭とCODとの比較
キャッシュレス決済の多様化が進む中で、近年特に注目を集めているのが「後払い決済(BNPL:Buy Now Pay Later)」です。BNPLは、消費者がオンラインで商品を購入し、商品を受け取った後に代金を支払うという点で、キャッシュオンデリバリー(COD)と共通する「後払い」の概念を持っています。しかし、その仕組みと事業者側のリスクにおいて、両者には決定的な違いがあります。
世界のBNPL市場は急速な成長を続けており、2024年には2,350億米ドルに達し、2025年から2034年にかけて年平均成長率(CAGR)21.2%で成長すると予測されています。この目覚ましい成長は、B2B(企業間取引)とB2C(消費者向け取引)の両市場におけるeコマース分野の急成長に起因しています。
日本国内のBNPL市場も、同様に拡大の一途をたどっています。2022年度の市場規模は約1兆2,600億円と推計されており、2024年度には1.8兆円を超え、2025年には1.9兆円に達する見込みです。また、別の調査では、日本におけるBNPL市場は2024年に210億米ドルに達し、2033年までに1,455億米ドルに達すると予測されています。この成長を牽引しているのは、電子商取引の採用増加に加え、消費者の柔軟な決済ソリューションへの嗜好の変化です。特に、ミレニアル世代やZ世代といった若年層が、従来のクレジットカードに代わる選択肢としてBNPLサービスを積極的に利用しており、オンラインショッピングにおける無利息の分割払いオプションを求めている傾向が見られます。Paidy(PayPalが買収)などの大手企業や国内のフィンテック企業が、シームレスなチェックアウト体験を提供するために小売業者との提携を拡大していることも、市場拡大に寄与しています。
BNPLがCODと比較して事業者にとって大きなメリットとなるのは、「未回収リスクの低減」です。BNPLサービスでは、通常、後払い決済サービス提供会社が購入者の債権をEC事業者から買い取る、あるいは保証する形で提供されます。これにより、EC事業者は商品発送後、たとえ購入者が支払いを滞納したとしても、サービス提供会社から確実に代金を受け取ることができます。つまり、事業者にとっての金銭的なリスクはほぼなく、安心して後払いを提供できるのです。
一方、COD(代金引換)の場合、支払いは商品が購入者の手元に届く際に行われます。この際、購入者が「長期不在」「受取拒否」「いたずら注文」などの理由で商品を受け取らず、結果的に代金が回収できないというリスクが存在します。この場合、事業者は商品の返品送料や再梱包費用、さらには商品が劣化していれば廃棄費用など、複数のコストを負担することになります。この点が、事業者にとってCOD導入の大きなハードルとなることがあります。
消費者の視点から見ると、BNPLとCODはどちらも「手元に現金がなくてもすぐに商品を購入できる」という共通の利便性を提供します。しかし、BNPLは多くの場合、支払いまでに一定の猶予期間(通常、数週間から数ヶ月)があり、その間は無利息で分割払いが可能なサービスが多く、大きな買い物に伴う経済的負担を軽減できるというメリットがあります。また、クレジットカード情報の入力が不要で、IDやパスワードだけで手軽に決済が完了する点も、消費者にとっての魅力です。
CODは、クレジットカードを持たない層や、ネットショッピングでのカード情報入力に抵抗がある層、あるいは単純に現金での支払いを好む層には依然として支持されています。しかし、BNPLの普及により、これらの層の一部がより柔軟でリスクの少ないBNPLへと流れる傾向が見られます。
BNPLは、旅行、ヘルスケア、サブスクリプションサービスなど、小売業以外にもユースケースを多様化させており、電化製品や高級品といった高額な買い物にも利用が増加しています。これは、平均注文額の向上やコンバージョン率の改善に寄与するため、EC事業者にとってBNPLの導入は非常に魅力的な選択肢となっています。
競争の激化もBNPL市場の特徴です。AfterpayやKlarnaなどのグローバルプロバイダーが日本市場に参入し、既存の国内プレーヤーはロイヤルティプログラムやパーソナライズされた支払いプランで差別化を図っています。一方で、規制当局による監視も強化されており、消費者保護と責任ある融資慣行に焦点が当てられています。
このように、後払い決済(BNPL)は、CODが提供してきた「後払い」という価値を、事業者側のリスクを軽減し、消費者にとっての利便性を高める形で再構築し、急速に市場を拡大しています。この動向は、CODの相対的な利用割合を減少させる要因となりつつあると言えるでしょう。
物流業界の課題とCODへの影響
現代のEC市場の発展は、物流業界にとって大きな変化と同時に、深刻な課題をもたらしています。特に「2024年問題」に象徴されるように、人手不足、長時間労働、そして小口配送の急増といった問題は、業界全体に大きな負担を与えています。このような状況は、キャッシュオンデリバリー(COD)の運用にも多大な影響を与えています。
物流業界が直面する主要な課題は多岐にわたります。まず、慢性的な人手不足は業界の根深い問題です。トラックドライバーの不足は深刻で、国土交通省のデータでもその現状が示されています。この人手不足は、残業時間の増加や休日出勤の常態化など、従業員の過酷な労働環境に直結しており、離職率の高さにも繋がっています。
次に、EC市場の拡大に伴う小口配送の急増と複雑化が挙げられます。以前は大口の荷物が中心だった物流が、個人のEC利用増加により、多様なサイズ・内容の小口荷物が大量に発生するようになりました。これにより、配送ルートの最適化や積載効率の維持がより一層困難になっています。さらに、消費者の「即日配送」「時間指定配送」といったスピードへの要求の高まりも、物流現場にさらなるプレッシャーをかけています。
このような物流業界の現状において、COD(代金引換)という決済方法は、物流事業者にとって追加的な負担となる側面が多いです。具体的には、以下のような点が挙げられます。
* **現金管理の手間とリスク:** 配達員は顧客から直接現金を回収する必要があるため、釣り銭の準備、回収した現金の紛失リスク、そして日々の精算業務が発生します。これは、キャッシュレス決済のように自動的に決済が完了する場合と比較して、配達員の業務負荷を増大させます。また、現金を扱うこと自体が、強盗などのリスクに晒される可能性もゼロではありません。
* **再配達と返品処理の増加:** CODは、購入者が商品を受け取らずに代金を支払わない「受け取り拒否」や「長期不在」といった問題が発生しやすい決済方法です。これらの場合、商品は物流拠点へ返品され、事業者は往復送料や保管費用を負担することになります。再配達の手間だけでなく、返品された商品の検品、再梱包、在庫計上といった一連の処理も発生し、物流コストを押し上げます。不正な注文やいたずら注文のリスクも無視できません。
* **配達効率の低下:** 現金を受け取る必要があるため、受け渡し時に時間がかかったり、顧客がつり銭を用意していなかったりするケースもあります。これにより、1件あたりの配達時間が長くなり、結果として1日に配達できる件数が減少する可能性があります。これは、ドライバーの労働時間増加や、全体の配送効率低下に繋がります。
実際、ヤマト運輸などの大手配送会社では、現金決済とキャッシュレス決済で料金に差を設けている場合があります。例えば、ヤマト運輸の宅急便料金は、2024年4月1日から改定され、60サイズの荷物の場合、キャッシュレス決済は1,056円であるのに対し、現金決済は1,060円と、若干ではありますが現金の方が高額に設定されています。これは、現金を取り扱うことにかかるコストが、料金に反映されている一つの例と言えるでしょう。
物流業界では、これらの課題を克服するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを加速させています。在庫管理システムの導入による倉庫業務の効率化、顧客情報の蓄積と分析による再配達リスクの低減、そして従業員の勤務状況をリアルタイムで把握し管理工数を削減するといった取り組みが進められています。しかし、CODのような現金手渡し決済は、これらのデジタル技術を活用した効率化の恩恵を受けにくいという側面があります。
将来的には、物流業界の負担を軽減するため、より効率的でデジタル化された決済手段への移行がさらに加速すると考えられます。CODは特定のニーズに応え続けるものの、物流コストや効率性の観点から、その利用を推奨しない、あるいは手数料を高く設定するといった動きが今後も続く可能性があります。EC事業者と物流事業者の双方が協力し、よりスムーズで持続可能な配送・決済システムを構築していくことが求められています。
不正対策とCODの安全性
Eコマース市場の急成長は、不正利用や詐欺のリスクも同時に増大させています。特に、オンラインでの商品購入やデリバリーサービスにおいて、不正注文はEC事業者にとって深刻な課題となっています。キャッシュオンデリバリー(COD)は、特定の種類の不正に対して一定の防御力を持つ一方で、特有の脆弱性も抱えています。
オンラインのフードデリバリーサービス市場は、2022年の2,216.5億米ドルから2024年には3,533億米ドルの収益に達すると予測されるなど、大きな成長を遂げていますが、それに伴い不正注文被害のリスクも高まっています。不正犯は、支払いをせずに食事を注文したり、他人の決済情報を盗んで悪用したりするなどの手口を使います。
ECサイトにおける一般的な不正対策としては、EMV 3-Dセキュアの導入、不正検知システムの活用、AIベースの与信評価などが挙げられます。これらの対策は、クレジットカード情報の不正利用や、アカウントの乗っ取り、フィッシング詐欺など、デジタル決済にまつわる不正の防止に効果を発揮します。NRIセキュアのレポートによると、EC加盟店では売り上げの約3%が不正利用によって失われており、不正の疑いがあるとして年間6%の注文を拒否しているものの、そのうち2~10%は正当な顧客からの注文を誤って不正と判断する「偽陽性」であると報告されています。
では、CODは不正対策の観点からどのような特徴を持つのでしょうか。
**CODの利点(特定の不正に対する防御力):**
* **クレジットカード情報の漏洩リスクがない:** CODは現金での対面決済のため、オンライン上にクレジットカード情報や銀行口座情報が残るリスクがありません。これにより、クレジットカード情報の不正利用や、アカウント情報流出による被害から消費者を保護することができます。
* **「フレンドリーフロード」への耐性:** BNPLやクレジットカード決済では、消費者が商品を受け取った後に「身に覚えがない」「商品が届いていない」などと虚偽の主張をしてチャージバックを申請する「フレンドリーフロード(当事者による不正利用)」が問題となっています。CODの場合、商品と引き換えに現金が支払われるため、この種の不正は原理的に発生しにくいと言えます。
**CODの脆弱性(特有の不正リスク):**
* **「受け取り拒否」「いたずら注文」のリスク:** CODの最大の弱点は、悪意のある顧客による「受け取り拒否」や「いたずら注文」です。注文された商品は配送されるものの、受取時に代金が支払われず、結果的に事業者が商品の往復送料や手間を負担することになります。これは特に、転売目的での大量注文や、競合他社による妨害行為として行われることもあります。
* **代金回収の手間とセキュリティ:** 配達員が多額の現金を扱うことは、現金強奪などの物理的なリスクに晒される可能性を伴います。また、現金と商品の照合、つり銭の準備、日々の現金精算といった業務は、人的ミスや不正の温床となる可能性も否定できません。
EC事業者がCODを導入する際には、これらのリスクを考慮した対策が必要です。例えば、高額商品や初回購入者に対してはCODの利用を制限する、あるいは少額の商品にのみ適用するといった運用ルールを設けることが考えられます。また、不審な注文(例えば、過去にいたずら注文の履歴がある住所や電話番号からの注文)に対しては、事前に本人確認を行う、あるいは他の決済方法への変更を促すなどの対応も有効です。
物流業界における不正対策も重要です。不正注文対策の観点では、Sift Scienceなどの企業が提供する不正対策ソリューションが注目されています。これらのソリューションは、AIと機械学習を活用して異常な取引パターンを検出し、不正の可能性を自動的に評価します。しかし、これは主にオンライン決済に関連するものであり、CODの物理的な現金受け渡しにおける不正(例えば、偽札の受け渡しなど)に対しては、配達員個々の注意と訓練がより重要になります。
結論として、CODは特定のデジタル不正リスクから消費者を保護する側面がある一方で、事業者側にとっては「受け取り拒否」や「いたずら注文」という特有の金銭的・業務的リスクを抱えています。EC市場全体の不正対策は高度化・複雑化していますが、CODの安全性確保には、デジタル技術による対策と、運用面の厳格なルール設定や従業員の教育といったアナログな対策の両方が不可欠であると言えるでしょう。
海外におけるCODの動向
キャッシュオンデリバリー(COD)は、日本では長らく普及している決済手段ですが、世界的に見るとその状況は国や地域によって大きく異なります。特に欧米の先進国では、クレジットカードやデタビットカード、そしてモバイル決済が圧倒的に主流となっており、CODはあまり一般的ではないとされています。しかし、一部の新興国や特定の市場では、CODが依然として重要な役割を担っています。
**先進国におけるCODの現状:**
欧米諸国では、クレジットカードの普及率が非常に高く、ほとんどのオンライン取引でクレジットカード決済が利用されています。また、近年ではPayPalやStripeなどのオンライン決済プラサービスや、Apple Pay、Google Payといったモバイルウォレットの利用も一般的です。これらの国々では、商品が手元に届いてから現金で支払うという習慣が薄く、EC事業者もCODオプションを提供しないケースがほとんどです。これは、決済の効率性、現金管理のリスク、および物流の複雑さを回避するためと考えられます。
**新興国におけるCODの重要性:**
一方で、新興国においてはCODが依然として広く利用されているケースが多く見られます。その背景には、以下のような要因があります。
* **クレジットカード普及率の低さ:** 新興国では、銀行口座の開設率やクレジットカードの保有率がまだ低い国が多く存在します。このような地域では、オンラインで商品を購入する際に、クレジットカード以外の決済手段が求められます。
* **オンライン決済への不信感:** デジタルインフラが未整備であったり、オンライン詐欺への懸念が強かったりする地域では、消費者がクレジットカード情報をオンラインで入力することに抵抗を感じることがあります。商品が実際に手元に届き、目で確認してから支払うCODは、消費者にとって安心感の高い選択肢となります。
* **物流インフラの発展:** インターネット普及率が高まりECが浸透しつつある地域でも、ラストワンマイルの物流インフラが十分に整備されていないことがあります。そのような環境下では、配送時に現金を回収するCODは、比較的シンプルな決済プロセスとして機能することがあります。
例えば、東南アジアや中東、ラテンアメリカの一部地域では、CODがEC市場の成長を支える重要な決済手段の一つとなっています。これらの地域では、Eコマース企業が消費者の信頼を獲得し、市場を拡大するために、CODを積極的に提供している事例が見られます。
**国際的な決済トレンドとBNPLの影響:**
国際的な決済トレンドとしては、キャッシュレス化が世界中で進展しています。特に「後払い決済(BNPL)」は、国境を越えて急速に普及している現象です。前述の通り、世界のBNPL市場は2024年に2,350億米ドルに達し、2025年から2034年にかけてCAGR21.2%で成長すると予測されています。ヨーロッパでは、英国、スウェーデン、ドイツなどでBNPL市場が拡大しており、2024年だけでヨーロッパが世界のBNPL取引額の約30%を占めると予測されています。この普及の背景には、従来のクレジットに代わる手段を求める若い消費者と、平均注文額を向上させるために柔軟な支払いオプションを統合する小売業者の存在があります。
BNPLは、クレジットカードが浸透していない新興国においても、消費者が高額商品を購入しやすくする手段として注目されています。商品を確認してから支払うという点でCODと共通の安心感を提供しつつも、事業者側の未回収リスクをBNPLプロバイダーが負担するため、EC事業者にとってはより魅力的な選択肢となります。このため、将来的には新興国においても、CODからBNPLへの移行が進む可能性を秘めています。
一方で、海外でもBNPLには課題が存在します。例えば、LendingTreeの2024年調査では、BNPLユーザーの約43%が少なくとも1回の支払いを遅延させていることが判明し、特にジェネレーションZとミレニアル世代にその傾向が強いと報告されています。これは規制当局の注目を集め、消費者保護の観点からBNPLに対する規制強化の動きが見られます。
このように、海外におけるCODの動向は、各国の経済発展段階、金融インフラの整備状況、消費者の決済習慣、そして新たな決済技術の普及状況によって大きく異なります。全体的にはキャッシュレス化とBNPLの波が押し寄せているものの、特定の地域や市場ではCODが依然として重要な選択肢であり続けているのが現状と言えるでしょう。
まとめ
2024年現在、キャッシュオンデリバリー(COD)、すなわち代金引換を取り巻く環境は、キャッシュレス化の急速な進展、EC市場の拡大、後払い決済(BNPL)の台頭、そして物流業界が抱える課題という、複数の大きな波に直面しています。
日本国内では、キャッシュレス決済比率が2024年に42.8%を達成し、政府目標を前倒しでクリアするなど、現金の利用が着実に減少しています。この流れは、現金での支払いを原則とするCODに直接的な影響を与え、ECサイトにおける決済手段の利用実態調査でも、クレジットカードに次ぐ主要決済手段としてPayPayや楽天ペイ、Amazon Payなどのモバイル・ID決済が急伸していることが示されています。特に若年層の間では、キャッシュレス決済が主流となり、現金志向が薄れている現状があります。
EC市場の規模が拡大し、2024年度には37兆円規模に達するオンライン決済サービス市場では、多様な決済手段の導入がEC事業者の売上向上に不可欠とされています。CODは、商品確認後の支払いという安心感や、クレジットカードを持たない層への対応という点で依然としてニーズがありますが、EC事業者にとっては、受け取り拒否やいたずら注文による返品・未回収リスク、そして配送業者側の現金管理負担といったデメリットが課題として認識されています。
その中で急速に存在感を増しているのが後払い決済(BNPL)です。国内外で市場が急成長しており、日本国内でも2024年度には1.8兆円を超える市場規模が予測されています。BNPLは、商品受け取り後に支払うという点でCODと共通していますが、債権リスクをサービス提供会社が負うため、EC事業者側のリスクが低い点が大きな利点です。消費者は無利息での分割払いが可能であり、柔軟な支払いオプションを求める若年層を中心に広く支持されています。
また、物流業界では、「2024年問題」に象徴される人手不足や長時間労働、小口配送の増加といった課題が深刻化しています。CODは、配達員による現金管理や再配達・返品処理の増加といった点で、物流業務にさらなる負担をかける側面があります。ヤマト運輸がキャッシュレス決済と現金決済で送料にわずかな差を設けていることからも、現金取り扱いコストが意識されていることが伺えます。
不正対策の観点では、CODはオンライン上での情報漏洩リスクがない一方で、事業者側には「受け取り拒否」や「いたずら注文」という特有の金銭的リスクが伴います。EC市場全体の不正対策はAIや機械学習を活用して高度化していますが、CODの運用には依然として人的な管理や厳格なルール設定が重要となります。
海外市場においては、欧米の先進国ではCODの利用は限定的ですが、クレジットカード普及率が低い新興国では依然として重要な決済手段として機能しています。しかし、これらの地域でもBNPLの普及が進んでおり、将来的にはBNPLがCODの代替となる可能性を秘めています。
結論として、キャッシュオンデリバリーは、キャッシュレス化の潮流の中で相対的にその利用割合を減らしつつも、現金主義の消費者や特定の市場ニーズに応え続けるでしょう。しかし、EC事業者や物流事業者にとっては、より効率的でリスクの少ないキャッシュレス決済やBNPLへのシフトが加速する中で、CODの運用コストやリスクを再評価し、全体の決済戦略の中でその位置付けを検討する時期に来ています。今後、CODは「多様な決済手段の一つ」としての役割を維持しつつ、その重要性は徐々に変化していくものと考えられます。