政府、備蓄米21万トン放出を発表:高騰する米価対策と流通円滑化への期待
備蓄米放出の概要:数量、時期、対象者
政府は2月14日、高騰するコメ価格対策として、備蓄米21万トンの放出を発表しました。これは、コメの流通円滑化を目的とした政府による備蓄米放出としては初めての取り組みです。放出は3月中旬を目処に開始され、初回は15万トン(2024年産10万トン、2023年産5万トン)を予定しています。 コメの流通状況をみて、必要に応じて追加放出を行うとのことです。放出方法は入札による売却で、年間玄米仕入れ量5000トン以上の主要な集荷業者を対象に実施されます。 農林水産省は、売り渡した業者から原則1年以内に同量のコメを買い戻すことで、長期的な価格への影響を抑える方針です。 21万トンという放出量は、農水省が「流通の目詰まり」と判断した量に相当します。2024年産の生産量は前年比18万トン増加したにもかかわらず、主要集荷業者が年末までに確保できた量は21万トンも減少しており、この不足分を備蓄米で補う形となります。 この放出により、3月末頃には小売店店頭に備蓄米が並ぶ見込みです。
米価高騰の背景と政府の対応:政策転換と今後の展望
コメ価格の高騰は、買い付け競争の過熱や、昨夏の品薄を踏まえた在庫確保の動きなどが背景にあります。2024年産の生産量は前年より18万トン増加したものの、JAなどの主要集荷業者の確保量は21万トン減少しました。農水省は、中小集荷業者の動向を把握しきれていないものの、買い付け競争の激化がJAなどの確保量減少に繋がったと考えています。 また、昨夏の品薄を経験した小売業者が、例年より多めに在庫を確保しようとしたことも、高騰の一因として指摘されています。さらに、生産コストの上昇も価格高騰に拍車をかけています。
政府は、当初新米の出回りで価格が落ち着くとみて備蓄米放出に慎重な姿勢を示していましたが、価格高騰が家計を圧迫する中、政策を転換し、今回の放出に踏み切りました。江藤拓農林水産大臣は、流通の滞りを改善したいという強い決意を表明しており、21万トンを放出しても状況が改善しない場合は、追加措置を検討するとしています。 農水省は備蓄米の流通状況を監視し、販売数量や金額を売り渡し先に報告させるなど、適切な流通を確保する体制を整えています。
関係者の反応:期待と懸念の声
今回の備蓄米放出について、関係者からは様々な声が上がっています。コメ卸売業者や小売業者からは、価格の下落に繋がることを期待する声が聞かれます。特に、卸売業者間取引(スポット)の価格は高騰しており、備蓄米の放出によって需給が改善し、価格が下落に転じる可能性があると期待する声も少なくありません。一方、生協からは、積極的に備蓄米を調達し販売する意向が示されましたが、消費者の間では、価格が以前の水準に戻ることを期待する声と、適正な価格での安定供給を望む声が混在しています。コメ生産者からは、資材や人件費の高騰を考慮すると現在の価格はある程度適正であるという意見の一方で、備蓄米の放出によって価格が安定し、国内米への需要が維持されることを期待する声も聞かれました。 専門家からは、21万トンという放出量は現時点では適切との見解を示す一方で、中長期的な価格動向は需給バランスに左右されるため、価格の乱高下リスクも指摘されています。
備蓄米制度:仕組みと過去の運用
政府の備蓄米制度は、1993年のコメ不足をきっかけに1995年に制度化されました。深刻な不作や災害時に備え、100万トン程度の備蓄を目標としています。これまで、備蓄米の放出は深刻な不作や災害時などに限られていましたが、今回の措置により、流通の目詰まりといった状況でも放出できるよう運用ルールが見直されました。過去の放出事例は、東日本大震災と熊本地震の際の被災地支援に限られています。