2025年7月最新!ベトナム経済と成長戦略の今:未来を拓く動向速報
はじめに
近年のベトナムは、ASEAN地域の中でも特に目覚ましい経済成長を遂げています。2025年上半期のGDP成長率は7.52%を記録し、これは過去15年間で最高水準の伸びです。製造業、サービス業、公共投資部門がこの力強い経済拡大を支えています。政府は2025年のGDP成長率目標を8%以上と掲げ、さらなる発展に向けた政策を積極的に導入しているところです。本記事では、このベトナムの最新経済動向を深掘りし、注目の政策や産業、国際関係について詳しく解説してまいります。
対米貿易協定の合意と今後の影響
2025年7月2日、ベトナム政府と米国は新たな貿易枠組みに関して合意に至りました。この合意は、ベトナムにとって非常に重要な意味を持ちます。当初、米国がベトナムからの輸入品に対して最大46%の相互関税を課す可能性が示唆されていましたが、今回の合意により、その税率は20%に引き下げられる見込みです。ただし、第三国からの積み替え品には40%の関税が課される可能性がありますので、その定義や判別方法については引き続き詳細な情報が待たれるところです。
この協定は、ベトナム経済に与える影響を巡る不確実性を大きく低下させました。ベトナム統計局のレ・チュン・ヒエウ副局長は、対米輸出品に20%の関税が課せられた場合、GDP成長率が0.7~0.8ポイント低下する可能性があると予測していますが、外部の専門家からは、影響は懸念されるほど深刻ではないとの見方も出ています。
日系企業の間では、20%の関税であれば影響は限定的と捉える声が多く、販売先で吸収できる範囲内であるとの見方や、ドル高の進行が影響を緩和するとの意見も聞かれます。一方で、「積み替え品」の定義や判別方法が不明確なため、中国からの生産移管がさらに加速する可能性も指摘されています。 この貿易協定は、ベトナムの輸出促進と外資誘致に大きく貢献する可能性を秘めており、今後の動向が注目されます。
飛躍するベトナムのデジタル経済とテクノロジー分野
ベトナムはデジタル経済とテクノロジー分野で目覚ましい進歩を遂げています。2025年7月15日現在、ベトナムには75,000社以上のデジタル技術企業が存在し、2024年のグローバルイノベーション指数では133カ国中44位と、前年より2つ順位を上げました。 デジタル経済はGDPの18.72%を占め、前年比で10%の成長を記録しています。国家データ統合・共有プラットフォーム上では6億3千万件もの取引が行われ、行政手続きのオンライン化率は約40%に達しました。
特に注目されるのは、半導体産業への注力です。ベトナムの大手通信企業Viettelは、2025年に半導体製造施設の第1フェーズを稼働させる予定で、1億4千万ドルの初期投資が行われます。 これは、ベトナムがハイテク半導体市場に本格的に参入し、世界のサプライチェーンにおいて重要な役割を担うという強い意欲を示すものです。
また、IPv6の導入においてもベトナムは世界をリードしており、2025年6月までに導入率が65.5%に達し、世界で7位に位置しています。 2026年から2030年にかけてはIPv6のみの導入を推進し、産業インターネットの発展と新たなサービスの創出を目指しています。 さらに、医療分野でもAI活用や病理診断のデジタル化が進められており、メドメイン株式会社がベトナムの主要医療機関とAI搭載クラウド型デジタル病理支援システムの導入に関する覚書を締結するなど、国際的な協力も活発です。
観光産業の力強い回復と成長戦略
ベトナムの観光産業は、新型コロナウイルス流行前の水準を大きく上回る勢いで回復しています。ベトナム統計局によると、2025年上半期(1~6月)の海外からの訪問者数は1,066万5,000人に達し、前年同期比で20.7%増加しました。これは2019年同期と比較しても25.7%の増加であり、ベトナム観光が単なる回復ではなく、新たな成長フェーズに入ったことを示しています。
特に、中国からの訪問者数が272万7,000人、韓国からの訪問者数が220万8,000人と、アジア市場が観光客数の大部分を占めています。日本からの訪問者数も39万3,000人で5位に位置しています。
この目覚ましい回復を後押ししているのが、ベトナム政府による戦略的な取り組みです。2023年8月からは、日本を含む主要国からの観光客に対し、ビザなし滞在期間を従来の15日間から45日間に大幅に延長しました。 また、電子ビザ(e-visa)の発給対象国を拡大し、オンライン申請手続きを簡素化したことも、より多くの旅行者がベトナムを訪れるきっかけとなっています。
ハノイ市では、2025年7月初旬以来、約300万人の観光客が訪れ、観光収入は10兆VNDを超え、前年同月比で目覚ましい増加を記録しました。 2025年最初の7ヶ月間では、ハノイには1,836万人の観光客が訪れ、観光収入は73兆ドンと推定されています。 9月2日の建国記念日パレードに合わせた観光客誘致のため、宿泊施設インフラの強化も進められています。
政府は2025年の海外からの訪問者誘致目標を2,200万~2,300万人と掲げており、上半期で既に目標の50%近くに到達しています。 航空会社の路線拡大も活発で、ベトナム航空は2025年半ばまでに、ベトナムの各都市と北京、バンコク、ベンガルール、ハイデラバード、プサン、バリ、ミラノを結ぶ直行便を就航しました。 これらの取り組みが、ベトナム観光のさらなる成長を牽引するでしょう。
インフラ整備と都市開発の進展
ベトナムは経済成長を支える基盤として、インフラ整備に力を入れています。特に、交通インフラの強化は国の優先課題の一つです。2025年7月には、首相が重要な国鉄プロジェクトの進捗加速を指示しました。南北高速鉄道プロジェクトでは、2025年と2026年に用地造成作業を完了させる計画が進められています。 また、ハノイ市とホーチミン市の都市鉄道路線についても、建設が積極的に組織されています。
ハイフォン市では、ラックフエン港湾エリアに新たに4つのコンテナバース(第9~12)を建設するための投資方針が承認されました。総投資額は約2兆4,846億ドン(約10億ドル)に及び、12,000~18,000TEU級の超大型コンテナ船に対応可能な港湾インフラを整備することで、国際物流ハブとしての機能強化を目指しています。 このプロジェクトは、2026~2030年に第9・10バース、2031~2035年に第11・12バースが整備される予定です。
公共投資も経済成長の重要な要素と位置付けられています。2025年の公共投資資金の執行を加速させるための会議が開催され、首相は公共投資が新たな雇用を創出し、発展の空間を広げ、40を超える産業に効果をもたらす重要な要素であると強調しました。 年末までに3,000キロメートルの高速道路網を完成させる目標も掲げられており、特に北部カオバン省から最南端のカマウ省までを結ぶ南北高速道路の完成が期待されています。
都市開発の面では、ハノイ市でガソリンバイクの市内中心部への乗り入れが2026年7月から禁止される方針が示されました。 これは都市部の大気汚染や交通渋滞の緩和を目指すもので、2028年には自家用車にも制限が拡大され、2030年には環状道路3まで対象範囲が広がる予定です。 一方で、公共交通網の整備が追いついていないことや、低所得層への影響が懸念されており、政府・市当局は電動バイクへの切り替えに対する補助金支給を検討しています。
経済外交の強化と国際協力
ベトナムは経済成長を促進するため、経済外交を積極的に推進しています。2025年7月22日、ファム・ミン・チン首相は海外代表機関とのオンライン会議を主宰し、経済外交の推進を通じて2025年下半期の経済成長目標の達成に貢献し、将来的な二桁成長への勢いを生み出すよう指示しました。
首相は、経済の連携、ベトナム企業と他国の連携、自由貿易協定の締結促進、優秀な人材の誘致、質の高い人材の育成、特に科学技術・イノベーション分野における海外のベトナム人専門家ネットワークの有効活用を要請しました。 また、市場とパートナーの多様化政策を効果的に実施し、ラテンアメリカ、中東アフリカ、中央アジア、中央東ヨーロッパなど、新たな潜在的市場での突破口を開くことも目指しています。
2025年上半期には、主要指導者による約50件の対外活動が行われ、10カ国との関係が強化されました。経済、貿易、投資、科学技術を中心とする協力協定は253件締結され、これは2024年の2倍にあたります。 ベトナムの海外代表機関は、約300件の経済外交活動、貿易促進、投資、観光活動を実施しました。
日本との関係も深化しており、ホーチミン経済財政大学(UEF)は学生インターンシップを通じて日本企業との連携を強化しています。 また、Vicells社(ベトナム)と日本の5-Star Medical Club社が再生医療分野で提携し、日本基準の医療サービスをベトナムで提供することになりました。 さらに、THACOグループ傘下のVinspeed社は日本企業と連携し、最新の物流技術と管理モデルをベトナム国内のサプライチェーンに導入する計画を進めています。 ツルハドラッグがホーチミン市にベトナム1号店をオープンするなど、日本企業のベトナム市場への進出も活発です。
地方行政の再編と効率化
2025年7月1日より、ベトナムの地方行政は、これまでの63省・市から新たに34省・市(6つの中央直轄市と28省)へと再編されました。 これは政治・行政の効率化や経済発展の促進を目的としたもので、約半分に集約される抜本的な改革です。
この再編は、重複する責任の排除と官僚機構の冗長性の削減に役立ち、報告ラインの透明性を向上させ、より迅速かつ効率的なガバナンスを可能にすると期待されています。 また、行政単位の統合により、より大規模で活気のある経済圏が創出され、インフラ整備や産業投資にとっての魅力が高まる可能性があります。
企業に対しては、再編に伴う登録所在地の変更手続きは不要であり、現行の企業登録証明書(ERC)を引き続き使用できるとのガイダンスが示されています。 しかし、その他のライセンスでの登録情報の更新要否など、詳細については省・市ごとの判断に委ねられるケースもあるため、企業は引き続き各省・市への確認が必要となるでしょう。
主要産業の動向と展望
農林水産業の成長と輸出拡大
ベトナムの農林水産業は、収穫高・生産量の増加に支えられ、安定した成長を維持しています。 特に、ドリアン輸出が好調で、冷凍ドリアンの輸出量が前年同期比で3倍以上に増加し、14,282トンに達しました。 生のドリアンも回復の兆しを見せ、5,217ロット(約13万トン)が輸出されています。
2025年初頭には、残留農薬や重金属の検出によりドリアン輸出市場は厳しい状況に直面しましたが、ベトナム農業・環境省大臣と中国税関総署(GACC)との交渉により、多くの栽培地コードと梱包施設が復活しました。 さらに、食品安全対応の強化を目的に、ドリアン生産地と梱包施設のデータのデジタル化とトレーサビリティシステムの運用が開始されています。 冷凍ドリアンは保存性の高さと安定供給が評価され、韓国、日本、EU市場などへの輸出の可能性も期待されており、多くの企業が冷凍加工ラインや冷蔵設備への投資を強化しています。
木質ペレットの輸出も好調で、2025年上半期には390万トン(5億6,477万米ドル)に達し、前年比で数量が33.3%増、金額が38.8%増と大幅に成長しました。 主力市場である日本と韓国への需要が依然として高水準にあります。
ドンザオ社(Doveco)のような大手農産物加工企業は、紙パック包装ライン「Tetra Recart(テトラ・リカルト)」を導入し、日本市場向けにスイートコーンを初出荷するなど、高付加価値化と国際市場への展開を進めています。
製造業の動向
製造業はGDP成長を牽引する重要な分野の一つです。2025年第2四半期の製造業の成長率は10.75%を記録しました。 しかし、米国の関税政策が新規輸出の受注に影響を与え、製造業購買担当者景気指数(PMI)は4月以降3カ月連続で景況感の改善・悪化の境目となる50を下回っています。 下半期は生産や輸出が減速する可能性も指摘されており、今後の動向が注視されます。
一方で、米中対立の影響で、多くの企業が調達先を中国からベトナムへ切り替える動きを見せており、新規の見積もり依頼が増加しているというプラスの影響も報告されています。 ベトナム政府は裾野産業の育成を推進しており、これにより国内での調達率が向上することが期待されます。
自動車産業とEVシフト
ベトナムの自動車市場も活況を呈しています。2025年第2四半期の新車市場は前年同期比で31%増加し、特にハイブリッド車(HV)が6割増と大きく伸び、日本車が存在感を示しています。
環境保護とエネルギー効率の向上を目指し、ベトナム政府は2026年までに全国でE10ガソリン(10%のエタノールを含むガソリン)の使用を義務化する方針を示しました。 これは国内のエネルギー市場に大きな影響を与え、エネルギーの多様化と輸入依存度の低減に貢献すると期待されています。
EV(電気自動車)充電設備の設置に対して、ヴィエティン銀行が低利融資を提供するなど、EVシフトを後押しする動きも出ています。 ハノイ市では2026年7月からのガソリンバイク乗り入れ禁止に続き、2028年には自家用車にも制限が拡大される予定であり、EVや電動バイクの普及が加速するでしょう。
金融セクターと株式市場
ベトナムの金融市場も活発です。2025年第2四半期の社債発行は銀行を中心に1.3兆円に達しました。 株式市場も好調で、VN指数(ホーチミン証券取引所上場の全銘柄からなる時価総額加重平均指数)は2025年7月14日までの1週間で4.9%上昇し、世界主要国の指数の中でトップの伸びを記録しました。 年初来の上昇率は16.1%に達し、取引金額も記録的な水準で推移しています。
この株式市場の高騰は、マクロ経済の安定と成長、企業の持続可能な利益成長の見通し、そして対米相互関税による不確実性の低下が主な要因として挙げられます。 国内市場への参加も継続的に拡大しており、現在1,000万以上の個人取引口座が開設され、これは人口のほぼ10%に相当します。
環境政策と持続可能な発展
ベトナムは持続可能な発展に向けて、環境政策を強化しています。E10ガソリンの義務化は、環境への配慮とエネルギー効率の向上を目指す重要な政策です。
港湾開発においても、環境保護(海洋生態系の維持、排水処理、気候変動への適応)や国防・安全保障、持続可能性に関する厳格な条件が定められ、国家の利益・主権を確保しながら開発が進められる方針です。
政府は、気候変動への対応や環境保護を目的とした投資を積極的に誘致しており、特に再生可能エネルギー分野への投資を歓迎しています。イーレックスがベトナム初の商用バイオマス発電所を稼働させるなど、具体的な動きも加速しています。
まとめ
2025年7月のベトナムは、力強い経済成長と未来に向けた多角的な取り組みが注目されています。対米貿易協定の合意による不確実性の低下、デジタル経済とテクノロジー分野の飛躍的な発展、観光産業の劇的な回復は、ベトナムの持つ大きな潜在力を示しています。インフラ整備や都市開発も着実に進み、持続可能な発展に向けた環境政策も強化されています。
一方で、国際的な貿易環境の変化や、急速な都市化に伴う課題など、乗り越えるべきハードルも存在します。しかし、ベトナム政府は積極的な経済外交を展開し、国際社会との連携を深めることで、これらの課題に対応し、さらなる成長を目指しています。2025年上半期のGDP成長率7.52%という力強い数字は、ベトナムが今後も世界の注目を集めるダイナミックな国であり続けることを予感させます。私たちは、この活気ある国のさらなる発展に期待し、その動向を注意深く見守っていく必要があるでしょう。