フォンデアライエン最新動向:2025年、激動の欧州を牽引するリーダーの戦略と未来
はじめに
2025年、欧州連合(EU)は地政学的な変動と経済的な課題に直面する中で、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長がそのリーダーシップをいかんなく発揮しています。彼女が率いる欧州委員会は、2025年に本格始動した第2期体制のもと、脱炭素化と産業競争力強化という二つの大きな目標の両立を目指しており、その動向は世界経済にも大きな影響を与えています。本記事では、フォン・デア・ライエン委員長の直近の活動に焦点を当て、その戦略と欧州の未来について詳しく解説していきます。
米EU間の歴史的貿易協定合意:貿易戦争回避と新たな枠組みの構築
フォン・デア・ライエン委員長は、2025年7月27日にスコットランドでドナルド・トランプ米大統領と会談し、米EU間の貿易協定に合意しました。この合意は、両経済大国間の貿易摩擦、特に懸念されていた「貿易戦争」の回避に成功した点で非常に大きな意義を持ちます。
今回の協定では、EUからの輸入品のほとんどに15%の関税が課されることになりましたが、これは当初懸念されていた30%の関税よりは低い水準です。トランプ大統領はこの合意を「これまでで最大の取引だと思う」と評価し、フォン・デア・ライエン委員長も「安定と予測可能性をもたらす、非常に大きな合意だ」と強調しました。
しかし、この協定に対しては、欧州議会の通商委員会委員長を務めるドイツ社会民主党のベルント・ランゲ氏が「かなり批判的だ」とコメントするなど、一部に懸念の声も上がっています。特に、関税が不均衡であることや、EUの対米投資6,000億ドル、トランプ政権下での対米エネルギー購入7,500億ドルといった多額の投資がEUの産業を犠牲にする可能性が指摘されています。
この新たな貿易枠組みは、半導体や医薬品にも15%の関税が適用される一方で、航空機や航空機部品、特定の化学品、特定のジェネリック医薬品、半導体機器、一部の農産物、天然資源、重要な原材料には双方向で関税がかからないという内容です。一方で、鉄鋼とアルミニウムには50%の関税が維持されます。
今回の合意は、米国がその前週に日本と結んだ枠組み協定の主要部分を反映しているとされ、ユーロは合意発表から1時間以内に、対ドル、対ポンド、対円で約0.2%上昇しました。 この歴史的な合意は、EUと米国の貿易関係において新たな時代を画するものであり、今後の世界貿易の動向にも大きな影響を与えることでしょう。
日EU協力の深化:「競争力アライアンス」立ち上げと経済安全保障の強化
フォン・デア・ライエン委員長は、2025年7月23日に来日し、石破総理大臣(当時)と第30回日EU定期首脳協議を行いました。この協議では、防衛産業や経済安全保障における連携強化で合意し、「競争力アライアンス」の立ち上げが発表されました。
この「競争力アライアンス」は、重要鉱物の供給網強靭化や防衛産業の対話促進など、経済安全保障における具体的な協力を進めることを目的としています。 フォン・デア・ライエン委員長は、「我々の価値に沿ったグローバルスタンダードを作る」と強調し、日EUがアメリカの関税措置や中国の経済的威圧といった課題に対応していく中で、共通の価値観に基づいた経済秩序の構築を目指す姿勢を示しました。
共同記者発表では、EUと日本の経済パートナーシップ協定がEU史上最大の規模であり、発効以来、二国間貿易が20%成長したことが言及されました。 また、循環型経済、排出量取引制度、クリーン技術における新たな協力関係の構築、そして北極圏を含む海底ケーブル接続に関する作業部会の設立など、具体的な協力分野が多岐にわたることも示されました。 これは、日EU間のデータフローをより安全で信頼性の高いものにするための具体的な一歩となります。
フォン・デア・ライエン委員長は、日本の「伝統と革新の融合」を高く評価し、日EUのパートナーシップは単なる戦略的なものではなく、共通の原則に基づいていることを強調しました。 この協力は、ウクライナの戦場からインド太平洋の海域まで、共通の安定と利益に対する脅威が増大する地政学的状況において、共通の解決策を提供し、共に行動することを意味します。
日EU間のこの強固な連携は、両者にとって経済的な利益だけでなく、ルールに基づいた国際秩序の維持とグローバルな課題への共同対処という観点からも極めて重要です。特に、COP30での成功裡かつ意欲的な成果の達成に向けて協力していくことも表明されました。
第2期フォン・デア・ライエン体制の本格始動と今後の政策課題
ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、2024年12月1日に2期目となる新体制を発足させ、2029年までの立法サイクルが本格的に始動しました。 彼女は2024年7月18日に欧州議会で賛成多数を得て再選を果たしており、その信任は揺るぎないものとなっています。 再選に必要な360票を大きく上回る401票の賛成票を得たことは、彼女のリーダーシップが幅広い政党グループから支持されていることを示しています。
第2期フォン・デア・ライエン体制の最優先課題は、欧州理事会が既に決定している「域内産業の競争力強化」です。 これには、企業の規制対応負担の軽減、許認可の迅速化、そして投資の促進が含まれます。 特に、欧州グリーン・ディールの目標を堅持しつつ、停滞が指摘される域内産業の競争力を強化し、米国や中国への域外依存を軽減するという難題に挑むことになります。
フォン・デア・ライエン委員長は、2期目の発足に先立ち、今後100日以内に以下の主要なイニシアチブを立ち上げると声明で発表しています。
* **クリーン産業ディール**: 産業界の脱炭素化を支援し、環境規制への対応負担を軽減します。
* **欧州防衛白書**: 防衛・安全保障の強化に向けた具体的な計画を提示します。
* **AI(人工知能)ファクトリー**: 域内のAI技術革新を促進し、その実用化を後押しします。
* **保健インフラ向けサイバーセキュリティー行動計画**: 重要なインフラのサイバーセキュリティを強化します。
* **農業・食料構想**: 農業分野の持続可能性と食料安全保障に関する政策を推進します。
* **EU拡大政策の見直し**: EUの拡大に向けた政策を再評価します。
* **若年層との政策対話**: 若者の意見を政策に反映させるための対話を促進します。
また、2025年1月29日には、「EU競争力コンパス」と題するコミュニケーション文書が発表されました。 これは、EUの経済成長と競争力向上を中心に据えた政策の新たな枠組みであり、新興企業や中小企業に対する規制の簡素化、民間資本の動員、イノベーションや持続可能性の促進を目的としています。 この「競争力コンパス」は、EUの各機関、加盟国政府、地域当局、そしてEU域内の企業を主な対象としており、日本企業にとってもEU市場における最新の政策動向を理解し、ビジネス戦略を検討する上で重要な指針となります。
特に、欧州グリーン・ディールについては、「技術中立」の原則に基づき、現実的なアプローチで実施する方針が示されています。 2050年の気候中立達成や2030年目標である温室効果ガス(GHG)排出55%削減(1990年比)を堅持しつつ、2040年目標案である90%削減についても案を堅持し、その実現に向けた関連法の実施と投資の強化を表明しています。
一方で、これらの野心的な政策を実現するための財源確保は大きな課題です。EU名義の共同債など、大型基金に関する具体的な言及が少ないことから、加盟国間の温度差が指摘されており、今後の協議は難航が予想されます。
まとめ
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、2025年、米EU間の歴史的な貿易協定締結、そして日EU間の「競争力アライアンス」立ち上げを通じた経済安全保障の強化など、国際舞台で精力的にリーダーシップを発揮しています。彼女が率いる第2期欧州委員会は、脱炭素化と産業競争力強化という喫緊の課題に対し、「クリーン産業ディール」や「EU競争力コンパス」といった具体的な政策を打ち出し、2029年までの長期的な視野で欧州の未来を形作ろうとしています。
しかし、これらの政策の実現には、多大な財源と加盟国間の協調が不可欠であり、今後も様々な課題に直面することが予想されます。フォン・デア・ライエン委員長のリーダーシップが、この激動の時代において欧州をどのように導き、世界にどのような影響を与えていくのか、その動向から目が離せません。