チュニジア2025年最新動向:激動の政治経済と観光業の復活
はじめに
2025年、北アフリカに位置するチュニジアは、政治、経済、社会の各方面で重要な局面を迎えています。カイース・サイード大統領による権力集中が続く中、反体制派への弾圧は国際的な懸念を呼び、一方で経済は緩やかながらも回復の兆しを見せ、特に観光業は目覚ましい成長を遂げています。しかし、高まる物価と失業率、そして深刻化する移民問題は、国民の日常生活に大きな影響を与え続けています。本記事では、2025年7月現在のチュニジアの最新ニュースに焦点を当て、その複雑な現状を包括的に解説してまいります。
サイード大統領による政治的締め付けと「陰謀事件2」の波紋
チュニジアでは、カイース・サイード大統領が2021年7月25日に議会を停止し、首相を解任して以来、権限を自らに集中させる動きが顕著になっています。この「権力掌握」から4年を迎える2025年7月25日には、首都チュニスで数百人の活動家がサイード大統領に抗議し、「共和国は大きな監獄だ」と訴えながらデモ行進を行いました。彼らは、サイード大統領の統治を「権威主義体制」と非難し、チュニジアが「野外監獄」と化したと主張しています。デモ参加者たちは、「恐れも恐怖もない…通りは人民のものだ」「人民は政権の打倒を望む」といったスローガンを叫び、投獄されている野党指導者やジャーナリスト、活動家の釈放を求めました。
この政治的締め付けの象徴とも言えるのが、最近判決が下された「陰謀事件2」です。2025年7月28日、アムネスティ・インターナショナルは、この事件における反体制派の大量有罪判決は、チュニジア当局による市民活動の制限と司法の独立性、公正な裁判の保証の侵害を示す新たな事例であると述べました。 この裁判は、2025年6月24日に開廷し、7月8日に判決が下され、24人のうち21人が有罪となりました。 有罪判決を受けた中には、イスラム主義政党アンナハダ党の幹部、元政府高官や治安当局者、弁護士、その他の野党党員が含まれており、刑期は12年から35年に及んでいます。
特に、アンナハダ党のラシード・ガンヌーシ党首は、裁判への参加を拒否したため、欠席裁判で14年の刑を言い渡されました。これにより、彼の合計刑期は27年となりました。 有罪判決を受けた10人はすでに収監されており、残りの11人の政治家はすでに国外へ脱出しています。彼らがチュニジアに戻れば逮捕されるため、この判決は彼らが数十年にわたり国内で政治活動を行うことを実質的に禁止するものです。 アムネスティ・インターナショナルは、当局に対し、「国家安全保障を装った批判者への標的化を含む人権侵害を直ちに停止し、司法の独立と法の支配を回復する」よう求め、これらの有罪判決の破棄と、恣意的に拘束されている人々の即時釈放を要求しています。
サイード大統領は、2022年には独立した最高司法評議会を解散し、数十人の裁判官を解雇しました。野党はこの動きを、一党独裁を固めるためのものだと非難しています。サイード大統領は司法への干渉を否定していますが、「いかなる名前や地位であっても、説明責任を免れる者はいない」と述べています。 2023年には、これらの政治家を「裏切り者でありテロリスト」と呼び、彼らを無罪にする裁判官は彼らの共犯者だと発言しました。
このような一連の動きは、かつてアラブの春の民主化蜂起の火付け役となったチュニジアの民主主義が後退しているとの批判を強めています。 抗議活動では、政治囚の肖像画や、現在の政治状況を表す檻が掲げられ、サイード政権下でチュニジアが「一時的な自由状態」にあり、常に逮捕のリスクにさらされていると訴えられました。
経済の緩やかな回復とIMF交渉の行方
チュニジア経済は、近年多くの課題に直面してきましたが、2025年には緩やかな回復の兆しを見せています。世界銀行の最新の経済報告によると、チュニジア経済は2025年に1.9%の成長が見込まれており、これは2024年の1.4%から改善しています。この成長は、降雨量の改善と主要部門における緩やかな安定化に支えられています。 特に、観光業と農業の回復力が経済再建に貢献しているとされています。 しかし、製造業は依然として課題に直面している状況です。
インフレ率は2025年初めに減速を続け、4月には5.6%に低下しました。これは2021年以来の最低水準であり、パンデミック前の平均水準に近づいています。 食料インフレは季節的要因と供給側の圧力により7.3%となっています。この緩和傾向を受けて、チュニジア中央銀行は2年以上ぶりに主要政策金利を7.5%に引き下げました。
財政面では、2024年の財政赤字がGDPの5.8%に減少しました。これは、公共支出の抑制と補助金水準の安定化によるものです。 しかし、経常収支赤字は2024年にGDPの1.7%に縮小したものの、2025年第1四半期にはエネルギー輸入の増加と輸出量の鈍化により貿易赤字が拡大し、対外収支に一部課題をもたらしています。
一方で、国際通貨基金(IMF)との間で進められている約19億ドルの新規融資交渉は、依然として膠着状態にあります。チュニジア政府は2022年10月にIMFと事務レベルで合意に達しましたが、サイード大統領はIMFが求める補助金削減を含む経済改革の条件に難色を示し、これを「外国からの命令」として拒否する姿勢を見せています。 サイード大統領は、チュニジアには現在の経済・社会課題に対処するための資源があると強調し、「さらなる貧困につながる外国の独裁は容認できない」と発言しました。
IMFは、食料やエネルギーに対する国家補助金の削減、公的部門の人件費削減、国営企業の再編を含む改革パッケージを融資の条件として求めています。 しかし、チュニジアの強力な労働組合であるUGTTは、補助金の撤廃や国営企業の民営化に強く反対しており、大統領の立場を支持しています。 UGTTは、IMFの条件がチュニジア国民をさらに貧困に陥れると主張しています。
もしIMFとの交渉が決裂すれば、チュニジアは数カ月以内に国際収支危機に直面する可能性があり、今年の債務返済が行えなくなり、現在の食料・エネルギー補助金も維持できなくなる恐れがあります。 チュニジアの公的債務は2023年にGDPの80.2%に上昇しており、その約60%が対外債務です。
2025年の政府の経済成長目標は3.2%ですが、世界銀行は2.3%が妥当と見ており、エコノミストの中には1.3%しか成長しないと予測する声もあります。 これは、国内借り入れへの依存が高まることで、民間投資への資金調達経路が枯渇し、税収が減少する可能性が指摘されているためです。
観光業の目覚ましい回復と今後の戦略
チュニジアの観光業は、2025年上半期に目覚ましい回復を遂げました。複数の戦略的変革が功を奏し、訪問者数、宿泊数、売上高が大幅に増加しています。 チュニジア観光省によると、2025年1月から6月までの訪問者数は、2024年の同時期と比較して18%増加し、外貨収入も約25%増加しました。 また、2025年2月には約150万人の観光客を迎え、2024年2月と比較して20%の増加を記録しました。 累計労働収入も2025年2月末時点で12億6,400万ディナール(約3億8,700万ユーロ)に達し、6.2%増加しています。
この成長の背景には、航空路線の利便性向上と、フランス、ドイツ、イタリアといった伝統的なヨーロッパ市場からの観光客の復活があります。 さらに、サウジアラビアやアラブ首長国連邦など湾岸諸国からの観光客も増加しており、これは高級志向の提供とリラックスできる文化体験の組み合わせが奏功しているためです。
チュニジアは、ホテル改修や交通機関の改善など、観光インフラへの投資を強化し、文化・歴史的豊かさや美しいビーチ、食文化を前面に出したプロモーションキャンペーンを展開しています。 チュニジア観光局(ONTT)によると、2025年1月頭から4月10日までの期間に、観光部門への投資案件は合計で7億5,000万ディナールに上り、そのうち5億5,000万ディナール相当がすでにチュニジア国内で実行されています。 2025年には観光部門への投資が10億ディナールを超える勢いです。
2025年には年間1,100万人以上の観光客が訪れ、2024年の1,026万人を上回る見込みであり、過去10年で最も力強い回復の一つとなる可能性があります。 観光収入も2024年には75億ディナール(約23億8,000万ドル)に達しましたが、2025年には80億ディナール(約25億4,000万ドル)を超える可能性があります。
しかし、チュニジアの観光産業は、トルコ、エジプト、モロッコといった地域内の競合国との激しい競争に直面しています。 これらの国々は、高級観光インフラへの投資を増やし、魅力的な税制優遇措置を提供しており、チュニジアは継続的な革新とサービスの向上を迫られています。 ホテル改修の遅れやセキュリティ管理への懸念、そして観光業界におけるデジタル化の遅れも課題として指摘されています。
チュニジアホテル連盟(FTH)は、リゾート中心のアプローチから、文化体験や地域との交流を重視する多様な観光戦略への転換が必要だと主張しています。 チュニジア政府は、2025年9月に2025年から2030年にかけての戦略的観光計画を発表する予定であり、これによりチュニジアを世界の主要な観光地として再構築することを目指しています。
深刻化する移民問題と社会への影響
チュニジアは、サハラ以南のアフリカからの移民がヨーロッパへ渡る主要な中継地となっており、近年、この移民問題はますます複雑化し、社会に深刻な影響を与えています。 経済的な苦境と、カイース・サイード大統領の移民に対する強硬な姿勢が、この問題の背景にあります。
2025年7月28日、チュニスでは、経済的・移住問題の深刻化を反映するかのように、「バルベチャス」と呼ばれる非公式なプラスチック回収業者、つまりプラスチックを集めて生計を立てる人々の数が増加していると報じられました。 彼らは、生活費の高騰のためにこの仕事に転向したと語っています。 2021年の公式統計によると、チュニジア人の約16%が貧困ライン以下で生活しており、失業率は現在約16%、インフレ率は5.4%です。
このプラスチック回収業者の増加には、サハラ以南のアフリカからの移民も含まれています。彼らの多くはヨーロッパを目指していますが、EUとチュニジアの地中海横断取り締まり強化により、途方に暮れている状態です。
チュニジア当局は、スファックスなどの都市郊外に形成された移民の簡易キャンプの解体作業を2025年4月から本格化させています。 国民警備隊の統計によると、2万から3万人のサハラ以南アフリカからの移民がこれらの簡易キャンプで生活していました。 当局は、解体作戦は治安と人道支援を組み合わせたアプローチであり、キャンプの衛生状態に問題があったと説明しています。
しかし、人権団体は、この取り締まりが「集団追放」であり、不法であると非難しています。 2023年2月、サイード大統領は、「サハラ以南の移民の群れ」が国の人口構成を脅かしていると発言し、外国人嫌悪の波を引き起こしました。 この発言は、多くの雇用主が不法滞在の移民労働者を解雇するきっかけとなり、彼らは恐怖の中で身を隠すことを余儀なくされました。 暴力事件も発生し、特にスファックスでは、移民と地元住民の間で緊張が高まりました。
2023年6月以降、国際人道支援団体によると、少なくとも5,500人の移民がリビア国境に、3,000人がアルジェリア国境に追放され、リビアとチュニジアの砂漠で100人以上が死亡する悲劇も起きています。 一方で、チュニジア当局は「自発的な帰国」を奨励しており、2024年には国際移住機関(IOM)のプログラムを利用して7,250人が帰国しました。これは2023年の2,557人から大幅な増加です。 しかし、市民社会団体は、自宅が破壊され、貯蓄を奪われ、子どもたちが住まいも食べ物もない状況で、IOMの帰国プログラムが唯一の選択肢となることは「強制的な生存」であり、「自発的」とは言えないと批判しています。
公共サービスの課題と政府の対応
チュニジアでは、公共サービスにおける問題も国民の不満の大きな要因となっています。2025年7月29日、カイース・サイード大統領はサラ・ザアフラニ・ゼンズリ首相と会談し、度重なる水と電気の遮断、様々な地域でのゴミの未回収、公共財産と環境の侵害、プロジェクト実施の妨害といった公共サービスの機能不全について議論しました。
大統領は、これらの混乱は、特定のロビーとその関連者が市民に損害を与えようとする試みを明確に示していると述べました。 また、国家には法の尊重を確保し、公共機関の正常な機能を妨害しようとする者に対して責任を負わせる法的手段があると強調しました。
サイード大統領は、公共資金を保護し、若者により広い展望を開くことを目的とした、いくつかの国家機関の再編の進捗状況についても説明を受けました。 彼は、愛国心、献身、コミットメントが選考の主要な基準であり、「待合室にいるように座っている者や、両者の間でバランスを取ろうとする者には、チュニジア国家に奉仕する場所はない」と断言しました。
これらの発言は、公共サービスの不備に対する政府の強い姿勢を示すものですが、同時に、政府機関内部に問題を抱えていることを示唆しています。
まとめ
2025年7月、チュニジアは政治的な緊張が高まる中で、経済の回復と観光業の好調という希望の光と、深刻な移民問題や公共サービスの課題という影の部分が混在する複雑な状況にあります。
カイース・サイード大統領による権力集中は、反体制派への弾圧という形で現れ、多くの政治家や活動家が長期刑を言い渡される「陰謀事件2」などの事例が国際社会からの懸念を招いています。デモ隊は民主主義の後退と「野外監獄」と化した状況を訴え、サイード政権に対する国民の不満は根強く存在しています。
一方で、チュニジア経済は2025年に緩やかながらも成長が見込まれ、インフレ率も低下傾向にあります。特に観光業は、航空路線の改善やプロモーション戦略が功を奏し、訪問者数、収入ともに大幅な増加を記録しました。政府は、今後の観光部門の成長に向けて新たな戦略計画を打ち出す準備を進めており、地域内の競争に打ち勝つための努力を続けています。
しかし、経済回復の道のりは決して平坦ではありません。IMFとの約19億ドルに及ぶ融資交渉は、サイード大統領の拒否姿勢と、補助金削減に反対する強力な労働組合UGTTの存在により、依然として不透明な状況です。この交渉の行方は、チュニジアの財政安定と国民生活に大きな影響を与える可能性があります。
さらに、サハラ以南のアフリカからの移民問題は、人道的な懸念とともに、社会経済的な課題を浮き彫りにしています。移民キャンプの解体や、外国人嫌悪の台頭、そしてプラスチック回収業者の増加は、チュニジアが直面する多層的な問題の一端を示しています。
公共サービスの不備もまた、国民の生活に直接影響を与えており、サイード大統領自身がこの問題への対策を強調しています。これらの課題にチュニジア政府がどのように向き合い、国民の生活改善と持続可能な発展を実現していくのか、今後の動向が注目されます。チュニジアは、民主化への道を模索し続ける中で、依然として多くの試練に直面していますが、その回復力と潜在力は、未来に向けた希望を秘めていると言えるでしょう。